正二十面体ホウ素クラスターカルボランは、材料化学の分野から医療分野まで幅広く実用化されているが、有機光電子材料としての応用を指向した研究例はほとんど無かった。そのような中、申請者はカルボランの電子求引性と適度な嵩高さに着目し、世界に先駆けてカルボランを基盤とする発光性材料開発に取り組んできた。 本年度の研究ではデカボランと9-エチニルアントラセンとを反応させることにより、o-カルボランにアントラセンを置換した化合物を合成した。その発光挙動を精査したところ、溶液中室温において450nmならびに600nm付近にピークトップを有するデュアルエミッションが観測された。一方、結晶の発光は600nmにピークトップを有するシングルエミッションが観測された。分子軌道計算により詳細に発光メカニズムの検討を行ったところ、450nm付近にピークトップを有する発光は、アントラセン環からの所謂ローカルエミッションであり、600nm付近にピークトップを有する発光は、アントラセンのパイスター軌道とカルボランの炭素炭素反結合性軌道が重なることによる分子内電荷移動(ICT)由来の発光であることが分かった。特筆すべきは、結晶状態において分子を励起すると、カルボランが回転してアントラセン環と炭素炭素結合の二面角が変化することである。すなわち、twisted-分子内電荷移動(TICT)発光という極めて希な発光挙動が観測された。
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