正二十面体構造のホウ素クラスター「カルボラン」は、材料化学の分野から医療分野まで幅広く実用化されているが、有機光電子材料としての応用を指向した研究例はほとんど無かった。我々は電子不足なホウ素からなるカルボランが示す電子求引性、ならびにo-カルボランの緩い炭素-炭素結合に着目し、世界に先駆けてカルボランを基盤とする発光性材料開発に取り組んできた。 本年度の研究では、エチニルアセチレン類とデカボランを反応させることにより、o-カルボランに様々なパイ電子系を置換した化合物を合成した。例えば、縮環芳香環とo-カルボランを組み合わせることで、青色から赤色まで各色で高輝度に固体発光する材料を開発することができた。その発光効率は最大で99%と極めて高効率に蛍光発光することが分かった。得られた化合物は全て可逆的サーモクロミズムを示すことが明らかになった。これは、結晶中にとりこまれた結晶溶媒が加熱により揮発することに由来する。加熱された固体を溶媒蒸気にさらせば元の状態に戻すことができた。一方、o-カルボランが置換した縮環芳香環を200度以上に加熱したところ、o-カルボランがm-カルボランに異性化することが分かった。異性化によりさらなる耐熱性が付与されると同時に、発光効率が向上することが明らかになった。 その他、ジアリールアセチレン置換o-カルボランのホウ素を一つ除去したアニオン化合物(nido-カルボラン化合物)を合成した。nido-カルボラン部位は電子供与性を示し、ジアリールアセチレンの発光色変化が観測された。
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