ベンゾデヒドロ[12]アヌレンとアジド化合物の付加環化反応が金属触媒を使用しない新しいクリック反応であることを見出した。最終年度は、高分子材料の創製法として応用する道筋を確立するため、架橋膜の作製とその性能評価を詳細に実施した。前年度までの知見に基づき、架橋高分子膜に白金ポルフィリン誘導体を混合したが、白金ポルフィリン誘導体の発光が架橋部位の発光に比べて相対的に強いため、ベンゾデヒドロ[12]アヌレンとアジドの付加生成物を発光部位として使用する利点が強調できなかった。そこで、添加物無しの架橋高分子膜を対象として再度、発光挙動を解析することとした。一部アジド化したポリ塩化ビニルにベンゾデヒドロ[12]アヌレンを0.5mol%添加して作製した架橋高分子膜と、一部アジド化したポリ塩化ビニルにベンゾデヒドロ[12]アヌレンとベンジルアジドの二付加体を0.5mol%混合した高分子膜の試料を準備した。架橋反応が100%進行したと仮定すると、それぞれの試料中の発光部位の濃度は等しくなる。各試料の発光スペクトルにおいて明確な差は見られなかったが、真空下で蛍光寿命を測定したところ、2つの試料で異なる応答が観測された。架橋高分子膜では1.41msの蛍光寿命を示したのに対し、混合膜では1.36msと蛍光寿命が短くなった。このことは、発光部位が架橋により固定化されているため、熱失活が抑制されたことを示唆している。すなわち、架橋高分子膜の方が混合膜に比べて高い酸素感度を示すことになる。以上より、金属触媒を使用しない新しいクリック反応の開発に成功し、有望な応用例を提示することに成功した。
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