研究課題
1.H27年度に得たトリキシリン酸モノマーの重縮合条件を明確にするために以下の研究を進めた。目的は二種類のジアミンと二種類のジカルボン酸から四種類のアラミド系ポリマーを得ることである。合成方法は、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性アミド系溶媒中でリン酸系縮合剤の存在下で直接重縮合法により行った。結果として屈曲構造のβ型ジカルボン酸由来のポリアミドに関しては、十分に分子量が上がらず、直線型のα型ジカルボン酸を中心にして分子設計を拡張した。ジアミンに関してはα型、β型の従来より想定しているジアミンを用いた場合と、βのように屈曲型ではあるが官能基が互いに別方向に存在するδ型のジアミンの合成に成功したため、これら3つのジアミンを用いてポリアミド合成を行った。ポリアミドの呼称としてはジアミンとジカルボン酸の型をこの順序で示すこととする(例:α-α型など)。また、α-α型に第三のモノマーである脂肪族ジカルボン酸を導入することで分子量を向上させ分子設計の幅を広げる研究も進めた。これにより、当初の分子設計をそのまま踏襲できなかったことの問題点を解決できたものと思われる。2.次に、ポリマーの溶解性および軟化温度、分解温度などの熱的物性を評価した。溶解性に関してはα-α型と比較して、β-α型、δ-α型の極性有機溶媒への溶解度が高いことが判明した。特にδ-α型は溶解力の高くないテトラヒドロフランにさえ溶解したことが特筆するべき点である。また、脂肪鎖を導入することによる溶解性の向上も見られた。また熱分析によりガラス転移温度、熱分解温度に関して評価した。その結果、β-α型、δ-α型のポリアミドはα-α型と比較して、ガラス転移温度が下がる傾向にあった。一方で、熱分解温度に関してはβ-α型は低下したが、δ-α型は屈曲構造であるにも関わらず分解温度が上昇するという興味深い結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた分子設計のポリアミドをすべて合成するには至らなかったものの、分子設計の幅を広げるために、異なる類似構造の光二量体を用いて研究を進めることができたため、当初の計画を大きく逸脱することなく順調に研究を進められていると判断した。
1.ポリマー溶液からのキャストおよび溶融成形によるフィルムやファイバーの成形H28年度に見出した良溶媒に各種ポリアミドを溶かし、粘性が明らかに確認できる高濃度溶液を調整し、ガラス基板上でキャストフィルムを得る。揮発性の良溶媒が見つからない場合には芳香族ポリアミドを良く溶かすトリフルオロ酢酸を利用する。また、高沸点溶媒にしか溶けない場合には加熱キャストによりフィルムを得る。同時に加熱溶液状態で高温湿式紡糸を行うことでファイバーを得る条件も明確にする。2.フィルムやファイバーの構造と光学的・熱力学物性との相関解明得られたフィルムの透明度、屈折率、アッベ数、複屈折を調べ、分子構造との関係を調べる。特にレンズなどの精密な光学材料として応用するには複屈折が小さい方が良い。これらのアラミドは分子主鎖方向と側鎖方向の両方に芳香環が存在するため、小さい複屈折が期待される。これら一連の物性を得たうえで、構造と物性との関係を相互的に議論し、最も高性能かつバランスの良い物性を示すアラミドを見出し、高い力学性能と透明性を併せ持つ、革新的な透明フィルムを開発する。
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Macromolecules
巻: 49 ページ: 3336-3342
10.1021/acs.macromol.6b00220