研究課題/領域番号 |
15H03865
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡辺 宏 京都大学, 化学研究所, 教授 (90167164)
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研究分担者 |
松宮 由実 京都大学, 化学研究所, 准教授 (00378853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 絡み合い / 伸長粘度 / 歪み硬化 / 歪み軟化 / セグメント摩擦 / 側鎖効果 |
研究実績の概要 |
側鎖の効果も含めた絡み合い高分子の応力の根源的理解のためには、これまで十分には検討されていない非絡み合い高分子が示す非線形性についての基礎的知見を得て、これを基盤として絡み合い高分子の非線形性を検討する必要がある。この観点から、低分子量の非絡み合いポリスチレン (PS)、ポリ(p-t-ブチルスチレン) (PtBS) のメルト系について伸長レオロジー測定を行った。その結果、両系とも、終端緩和時間と伸長歪み速度の積として算出されるワイゼンベルグ数 Wi が 2-5 程度の中速伸長速度に於ける定常伸長粘度の歪み硬化を示し、Wi > 5 の高速伸長速度に於いては歪み軟化を示すことが見いだされた。また、Wi が 2-5 程度の中速伸長速度に於ける歪み硬化は、PS 系の方が PtBS 系より顕著であることも見いだされた。 以前の実験から、絡み合い PS メルト系は、中速伸長速度に於いても定常伸長粘度の歪み軟化を示すことが知られている。従って、非絡み合い PSメルト系が中速伸長速度に於いて歪み軟化を示すという上記の新知見は、伸長下の鎖の延び切り効果は非絡み合いメルト系の方がより顕著であること、また、絡み合い系の方が鎖の伸長・配向に伴うセグメント摩擦低下が顕著であることを示唆する。さらに、非絡み合い PS, PtBS 系で、中速伸長速度に於ける歪み硬化は前者の方が顕著であるという上記の新知見は、鎖の伸長・配向に伴うセグメント摩擦低下は側鎖が嵩高いほど顕著となることを示唆する。これらの結果は、現在の管モデルに更なる精密化が必要であることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
側鎖の効果も含めた絡み合い高分子の応力の根源的理解のためには、応力-光学則に基づいて応力に対する高分子鎖の伸長と配向の寄与を分離・評価すること、非絡み合い高分子が示す非線形レオロジー特性を基盤として絡み合い高分子の非線形性を検討することが必要となる。この観点から、平成27年度には、絡み合い系がずり流動開始後に示す応力について理論解析を行い、ワイゼンベルグ数Wi が 1-3 程度の中速流動下のずり応力のオーバーシュートは鎖の配向異方性のオーバーシュートを反映し、Wi = 1-3 程度では鎖の伸長は殆ど起こっていないことを見いだした。また、平成 28 年度には、本科学研究費補助金で購入したフィラメント伸長レオメータを用いて、低分子量の非絡み合いポリスチレン (PS)、ポリ(p-t-ブチルスチレン) (PtBS) のメルト系について伸長レオロジー測定を行った。その結果、両系とも、Wi が 2-5 程度の中速伸長速度に於いては定常伸長粘度の歪み硬化を示すが、この硬化は PS の方が顕著であること、Wi > 5 の高速伸長速度に於いては歪み軟化を示すことなどが見いだされた。この結果は、伸長下の鎖の延び切り効果は非絡み合いメルト系の方がより顕著であること、絡み合い系の方が鎖の伸長・配向に伴うセグメント摩擦低下が顕著であること、鎖の伸長・配向に伴うセグメント摩擦低下は側鎖が嵩高いほど顕著となることなどを示唆する。 以上の成果は、鎖の伸長・配向に伴うセグメント摩擦低下と側鎖の化学構造の関係を検討して絡み合い系の非線形伸長レオロジー挙動の詳細を解明する (平成29年度の課題) ためのガイドラインとなる。
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今後の研究の推進方策 |
既設のずり流動型レオメータおよび本科学研究費補助金で購入したフィラメント伸長レオメータを用いて、種々のポリ(アクリル酸エステル) 系のずり応力緩和測定、伸長応力緩和測定を行い、平成27, 28 年度に得た知見を援用して、ずり流動下の歪み軟化、伸長流動下の歪み硬化に対するセグメント摩擦の効果と絡み合いの効果を分離・評価する。また、それぞれの効果に対する高分子の化学構造(側鎖構造)の寄与も評価する。さらに、得られた結果を、現在の管モデルに還元することを試みる。
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