研究課題
本研究の目的は、リチウムイオンと電子の両方が動く混合導電体のリチウム拡散を調べる手法を開発することである。混合伝導体の代表例はリチウムイオン電池の正極材料であり、コバルト酸リチウム(LiCoO2)が良く知られている。これまで、リチウム電池の充放電によりリチウムの濃度勾配を作り、化学拡散係数を調べる方法は知られているが、濃度勾配がないときの自己拡散係数を直接調べる方法は知られていなかった。そこで本研究では、コバルト酸リチウムの自己拡散係数を測定するために、同位体置換と二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた。6Li同位体を95%含むコバルト酸リチウムを合成し、パルスレーザー堆積法により6LiCoO2薄膜を作製した。その後、7Liを92%含むLiClO4の炭酸プロピレン電解液を用いて充放電を行うことにより、6Li/7Li同位体のイオン置換を行った。このようにして得た6Li/7Li拡散対をSIMSで分析することにより、リチウムの自己拡散係数を決める実験手法を確立した。定比組成LiCoO2薄膜のab面内方向のLi自己拡散係数(D*)を700℃~300℃の範囲で測定した。拡散係数の値は温度に依存して変化し、10-7から10-13 cm2/sの範囲で大きく変化した。拡散係数の値は600℃でD* = 2.6 × 10-8 cm2/sであり、活性化エネルギーはEa = 1.2 eVであった。以上の結果から、定比組成LiCoO2のLi拡散は空孔拡散機構によると考察した。700℃~300℃の範囲での高い活性化エネルギーは空孔形成エネルギーと移動のエネルギーの和であると考えられる。また、室温でLi脱離が可能になるのは、大きな熱力学因子により自己拡散係数と化学拡散係数に数桁の違いが生じるためであると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画以上に進展している。計画していたLiCoO2薄膜の拡散係数の測定法の開発は順調に成功し、拡散係数のデータも300℃から700℃まで広い温度範囲で測定ができた。温度依存性はアレニウスプロットで直線に載り、実験の信頼性と再現性を確認することが出来た。また、当初の計画に加えて、固体電解質であるリン酸リチウム薄膜にもこの技術を応用し、室温から150℃の範囲での拡散係数を求めることに成功した。イオン伝導度から求めた伝導度拡散係数とSIMSから求めたトレーサー拡散係数はほぼ一致し、実験手法の妥当性が証明された。以上の結果から予定を上回る成果が得られたといえる。問題点としては、LiCoO2の拡散係数が予想よりも小さく、電気化学測定から得られた値とは違いが大きいことである。これはLi組成の違いに起因するものであると考えられるので、来年度以降の研究により詳細を明らかにしていく必要がある。
今後の研究については、最初に、本研究で開発した手法の妥当性を実証して論文として発表する。具体的にはリン酸リチウム薄膜(固体電解質)の拡散係数測定をSIMS法によって行い、イオン伝導度から求めた伝導度拡散係数と比較する。これらの結果をまとめて論文として発表する。次に、LiCoO2のLi量を制御する手法を検討する。具体的には酸化剤による化学的Li脱離、6Liを含む電解液を用いたイオン交換法を試みる予定である。これらの手法でLi1-xCoO2薄膜を作製した後、SIMSにより拡散係数を明らかにする。
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