研究課題/領域番号 |
15H03880
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小林 範久 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 教授 (50195799)
|
研究分担者 |
中村 一希 千葉大学, 融合科学研究科(研究院), 准教授 (00554320)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 先端機能デバイス / ディスプレイ / エレクトロクロミズム / プラズモン共鳴 / 電気化学素子 |
研究実績の概要 |
エレクトロクロミズム(EC)は表示・調光素子応用が急速に実用化し始めたことから,その展開に大きな期待がもたれている。銀イオンも電気化学的に還元することで電極上に銀が析出し,電極表面の光学状態が変化するため一種のECといえる。本研究では,銀電着系に関しその光学状態が電極上に析出した銀ナノ粒子の局在表面プラズモン吸収に起因することに着目,電着銀の粒径を均一任意に制御することで全く新奇なブラズモン吸収帯制御フルカラーEC素子の実現を目的としている。 平成27年度は,まず1)反射型三原色でまだ未開発なイエロー(Y)の発現とマゼンタ(M)ならびにシアン(C)も含めた階調(8 階調を目標)の制御方法確立,2)銀粒子の還元析出・酸化溶解挙動の正確な理解と光学特性の相関解明,さらには3)赤外領域のおける反射挙動等の知見収集に重点を置いた。 具体的には, 1)電着銀ナノ粒子核生成と核成長を独立に制御できるステップ電圧を平滑ITO電極に印加することで,析出銀粒子径を均一に制御でき,銀電着のみでC,Mの発色が可能である。Yの発現には粒子径の小さな銀粒子生成が必要なため,大きな比表面積を有するITO ナノ粒子修飾電極にステップ電圧を加え,Y発色を実現した。 2)電着銀の析出溶解機構を正確に理解することは高効率なEC素子作成や省エネにつながる。析出溶解反応機構の正確な理解を目的として,電位走査時における電極の重量変化を水晶振動子を利用したEQCM質量測定法を用いて解析した。その結果,透明とミラーの光学状態変化において,析出反応は銀のみの還元反応だけではなく副反応の寄与が明らかとなり,また溶解反応は析出銀の溶解のみならずハロゲン化銀の析出等を経由して溶解していくことが明らかとなった。3)ミラーを示す光学状態において赤外領域のおける反射挙動等を解析し基礎知見を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の達成目標として1)反射型三原色でまだ未開発なイエロー(Y)の発現とマゼンタ(M)ならびにシアン(C)も含めた階調(8 階調を目標)の制御方法確立,2)銀粒子の還元析出・酸化溶解挙動の正確な理解と光学特性の相関解明,さらには3)赤外領域のおける反射挙動等の知見収集をあげた。 結果として, 1)ITOナノ粒子修飾電極を用いることで,電極面積が大きくなり電流密度を下げられると共に,お互いが融着,干渉しない独立した銀ナノ粒子の形成が可能となり,明瞭なY発色が可能となった。局在表面プラズモン共鳴吸収波長と粒径の相関を既知の銀ナノ粒子と比較することで,本銀電着型EC素子における銀ナノ粒子構造と光学即製の相関が明確となり,新奇な知見が得られている。また2)では,銀電着ならびに溶解に伴う重量変化と反応電荷量の関係から,単位電荷当たりの反応物質量が求まる。その結果,析出溶解とも単純な銀における酸化還元ではなく副反応が寄与していることが明らかとなった。2極素子を作成するうえでの作用極,対極における電極反応の電荷バランスをあわせるうえでも有効な知見となった。3)は十分な検討はできなかったが,本EC素子のミラー発現状態および透明状態がどの程度赤外域を反射吸収するかの基礎知見を得た。MやC発色においても反射の寄与があるため,その点も含めた解析の必要がある。 以上の結果が得られたものの,1)においては階調発現はできるものの,その維持時間が不十分である,2)副反応の反応機構の明確化とその寄与を押えるための方法論の確立,3)本EC素子のON-OFFに伴う赤外域で変化率を増大するための方法論の確立など,まだ明確に解析できていない点もある。これらを考慮して上記のように自己判定した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は当初の計画から外れてはいない。平成27年度得られた結果をさらに発展し,当初目的を達成させるため,以下の項目について具体的な検討を進めていく。 1.本課題の主目的である減法混色系フルカラー表示を目的として,CMYの階調発現を行う。まず,それぞれ8階調を目指す。C,Mに関しては平滑ITO 電極上へのステップ電圧印加により発現できるが,電着銀粒子径の成長(電圧印加時間)と共にMからCに色調変化するため,階調を表現するには粒子成長を見かけ上止める必要がある。そこで目的の色調に到達した時点で電圧on-offを適当なDuty比で繰返し,銀粒子の析出溶解を釣合わせる。銀の 析出溶解は水晶振動子を用いたEQCMで監視し,階調維持に必要な最適条件を見出すとともに,CMY各々8 階調表現可能な方法論を確立する。 2.階調表現を実現するさらなる方法は素子のメモリー性を確立することにある。素子のメモリー性は溶解を促進する銅(II)イオンが電解析出した銀粒子にアクセスできない条件を確立することで達成可能と考えられる。これら条件確立のための素子構成を検討すると共に,素子の発消色効率向上,消費電力低下を実現できる材料系,素子構造を実現する。これらを達成するしたうえで,その次の目的となる,より色域を広げるためのナノ規則表面を持つ電極系の適用や異種金属とのプラズモンカップリングの展開も考慮に入れ研究を推進する。
|