研究課題
平成27年度は,次の二つの目標を掲げ,薄膜合成と基礎物性の評価に注力して研究を行った.①光活物質としてのFe系酸化物:組成や配向が異なる試料の電子相図を参照試料の電子相図と比較することで触媒能の制御因子を明らかにする.②電荷活物質としてのTi系酸化物:電荷量からLiの挿入脱離量を精密に制御した電荷活物質薄膜の抵抗率測定を行い,電子相図を完成する.その結果,薄膜合成法ならびに基礎物性評価手法を確立することに成功した.①については,サイクリックボルタンメトリーとインピーダンス解析を組み合わせることによって,触媒能の制御因子を明らかにした.②については,期待通りの電子相図が得られたものの,Liの挿入脱離量を精密に制御することに関しては課題が残った(「現在までの進捗状況」に詳述).以下に①と②の成果の概要を述べる.① α-Fe2O3はc軸よりもそれと直交する軸方向で高い導電率を示すことが知られている.c軸に平行・直交に配向したα-Fe2O3光電極を作製し,光照射下サイクリックボルタンメトリーにより評価した.c軸に直交に配向した場合に光電流が大きいことが分かった.また,インピーダンス解析から,表面準位容量が大きく異なることが分かった.このことは結晶面の安定な表面終端構造や酸素原子密度の違いによるものと結論した.② 超伝導材料であるチタン酸リチウム薄膜を負極材に用いたリチウムイオン電池セル構造を形成して充電・放電操作を繰り返し行い,同時にチタン酸リチウムの電気抵抗を測定した.その結果,充電時には常伝導に,放電時には超伝導にと電気抵抗が切り替わることを実証した.また,充電・放電操作前後での超伝導転移温度を比較したところ,両者が完全に一致しており,可逆的な超伝導転移であることを発見した.
2: おおむね順調に進展している
計画通り進んでいるが,Liの挿入脱離量を精密に制御することができていない.これまでのところクロノアンペロメトリーを用いて脱挿入したLiイオンの定量を行っているが,測定手順の関係で室温と低温を行き返りする間に僅かながらLiイオンの脱挿入が起きていることが分かった.Liイオン量に依存するエレクトロクロミックの性質を利用して分光学的に定量する手法を検討する予定である.一方で,成果のインパクトという意味では我々の予想を上回った.すなわち,「電池を使うと超伝導に」というプレスリリースのタイトルが反響を呼び,テレビ番組で紹介されるとともに,海外の複数のメディアでニュースとして取り上げられた.
平成27年度に確立した実験手法を用いて材料範囲を拡張する.具体的にはFe系酸化物の光触媒活性を上げるCoリン酸錯体などを担持した薄膜やVやW系酸化物を対象にする.当初ガスクロマトグラフを電気化学セルに接続した装置を立ち上げることを計画していたが,既存装置を利用する目途が立ったので不要となった.
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