研究実績の概要 |
本研究では,高品位な遷移金属酸化物の薄膜試料を作製し,可視光応答型光電極やリチウムイオン二次電池への応用を可能とする新しい電極活物質を創製すること目的として,反応活性や電子状態を電子相図で解析することで顕著な物性を明らかにしてきた.平成29年度は以下に述べる研究を実施するとともに,3年間で得られた成果を総括した. 可視光応答型光電極については,前年度までに得られたFe2O3系光アノード(酸素発生電極)の実験結果に基づき,(1)チタン酸遷移金属MTiO3(M = Mn, Fe, Co, Ni)光アノード,(2)CaFe2O4光カソード(水素発生電極),(3)チタン酸窒化物光アノードの薄膜合成と物性評価に取り組んだ.また,平成27年度に実施した超伝導LiTi2O4の関連テーマとして(4)高次チタン酸化物の薄膜合成に取り組みγ-Ti3O5やTi4O7という新奇な超伝導体を発見した.そして,超伝導の発現にはバイポーラロンを介した非常に珍しい機構が関与していることを示した.さらに高次チタン酸化物の共晶薄膜を作製し超伝導転移温度を三成分系相図で表した.一方,昨年度実施した超伝導CsxWO3の関連テーマとして(5)CsW2O6の薄膜合成と物性評価を進めた.磁気抵抗変化の特異な温度依存性,ならびにCsイオンのラットリングやWサイトの電荷不均化を伴う電子状態を明らかにした.研究課題を通じて扱った20余りの遷移金属酸化物の半数に対して,薄膜形状による新規な電子物性を明らかにした.特にFe2O3系光アノードとLiTi2O4やγ-Ti3O5などの超伝導特性について電子相図解析による顕著な物性を明らかにすることに成功した.
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