研究課題/領域番号 |
15H03889
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
松谷 巌 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (00514465)
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研究分担者 |
大沼 清 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (50396834)
桑原 敬司 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (50525574)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 音響共鳴現象 / 超音波パルスエコー / 膜厚 / 音速 |
研究実績の概要 |
従来技術である音響共鳴顕微鏡は、超音波を利用して膜厚の非破壊計測が可能であるものの、音速が既知であることが必須であった。そのため、音響物性が未知の物質を対象として、液中での非接触・非破壊・非侵襲による音速と厚さの同時計測手法を開発している。薄膜付きの金属基板を、薄膜を下側に向けて水中に置き、超音波の反射波を計測する。このとき、音響共鳴現象を強く発現させるために、薄膜下部に空気の層をつける。すると、周波数解析により、スペクトルの極小値である共鳴周波数が得られる。次に基板を上下逆にして膜の有る箇所と無い箇所を計測すると、その時間差は膜厚と音速の式で表わすことができる。水中の音速値が既知のとき、これらの実測値から音速と膜厚を同時に求めることができる。しかしながらこの手法では、共鳴周波数を得る過程と薄膜の有/無箇所での時間計測を行う過程で、基板を上下に配置し直す必要があるため、より広い意味での薄膜材料の膜厚計測には適さないという欠点があった。例えば重合中の導電性高分子薄膜の膜厚の増加や、細胞などの生体材料が周囲環境に刺激を受けて分化し形状変化や質的変化をしている状況をリアルタイムに計測することには適用できないという問題があった。そこで、薄膜付きの金属基板を上側に向けたままで共鳴周波数と時間差を計測する手法に取り組んだ。また、従来の超音波計測では固体接触式、液浸式、レーザ超音波などを利用したものが主流となっているが、その分解能は高々1μmが現状である。特にレーザ超音波法では光の回折限界によって分解能の向上が頭打ちになる。そこでより高分解能な超音波計測を行うために、近接場光を利用した超音波計測手法の確立にも取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は薄膜の膜厚と音速の同時計測手法の中でも、薄膜付きの金属基板を上側に向けたままで共鳴周波数と時間差を計測することによって基板の表裏を返さずとも計測が可能となる手法に取り組んだ。膜厚10~25μmのコーティング薄膜について膜厚と音速の同時計測を行い、参照のレーザ顕微鏡との比較を通じて、本手法の有効性と計測精度を評価した。膜厚が25μmのときは誤差率1.2%での計測が可能であったものの、膜厚が10μmと非常に薄いサンプルのときは誤差率が4.5%となった。非常に薄い薄膜に超音波を照射したときに、薄膜上面からの反射波と底面からの反射波が干渉し、薄膜表面での反射波と薄膜-基板の境界からの反射波が混合していると考えられ、それが測定誤差につながっていると考えられる。そのため、今後は反射波の分離について検討を進めるとともに、現状の装置の構成による測定手法の限界と理論的な分解能について検討を行う。一方、より高分解能な超音波計測を行うために、近接場光を利用した超音波計測システムの構築を行った。原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーの先端にパルスレーザを照射して近接場光を発生させ、超音波振動の計測の可否について検討を行った。超音波振動をしている試料表面とカンチレバー先端が相互作用して散乱光を発生させるが、それを光電子増倍管で計測することで、超音波振動の検出に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き音響共鳴現象を利用した周波数解析と反射超音波の時間計測を組み合わせることで、音速と膜厚の同時計測を可能にする方法を検証する。また、高分解能な超音波計測の実現のために、近接場光を利用した超音波計測手法を完成させる。今後、iPS細胞を計測対象とした膜厚計測手法を行うが、細胞は長時間空気に触れると破裂するため、超音波を通す瞬間だけ空気層を接触させ、その直後に空気層を流す装置を追加する必要がある。そこで、エバネッセント光を利用して、微小な気泡の発生に関する検討を行う。エバネッセント光は、光が全反射するとき、その媒体の外側に形成される、指数関数的に急減衰して伝播しない光である。これまでの検討で、水などの透明媒体によって閉じた系を形成しながらエバネッセント光を発生させたときに、通常よりも増強された超音波の励起に成功している。この原理を利用して、光の波長以下のナノ領域(プリズム表面上)における液体を瞬間的に蒸発させて、微小な気泡を形成する手法について検討を行う。さらに、照射するパルスレーザのエネルギー密度に対する気泡の直径を調査する。また、音響共鳴現象を利用する場合、音響インピーダンスの関係から、薄膜は金属基板に乗っていることが必要になる。そこで細胞毒性が低く、人工骨などにも使用されるチタン基板の上にヒトiPS細胞塊を接着する検討を行う。
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