研究課題/領域番号 |
15H03895
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川田 宏之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20177702)
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研究分担者 |
荒尾 与史彦 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (40449335)
細井 厚志 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60424800)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 高密度化処理 / 黒鉛化処理 |
研究実績の概要 |
本研究では世界最高強度を有するカーボンナノチューブ(CNT)無撚糸の創成を目標とし,CNT無撚糸を強化材としたプラスチック基複合材料を成形し,その機械的特性を評価した.CVD法でシリコン基板上に垂直に成長したCNTフォレストから微細径のダイスを通して多数本の多層CNT(MWCNT)を直径30~50ミクロン程度に束ねた連続強化繊維を作成した. 初めに,CNT無撚糸の高強度化を目的として,密度の異なる未処理繊維にPAA/DMSO溶液を含侵させ高密度化処理を行い,未処理繊維の密度の違いによるPAA/DMASO処理の効果を調べた.密度の差異は,CNTフォレストウェブからの取り出し幅を変更させることで実現した. その結果,高密度未処理繊維にPAA/DMASO処理を施すことによって,破断応力1.39GPa,弾性率127GPaを得ることができ,一方,低密度未処理繊維に同様の処理を施すことで,破断応力2,21GPa,弾性率202GPaを得た.これはPAAを用いた高密度化処理によってCNT無撚糸が低グレード炭素繊維に相当する機械的特性を有することを示す結果となった.また,未処理繊維の繊維密度が低い程,高強度・高剛性繊維となる結果を示しており,PAA/DMASO処理高密度化処理の有効性を明らかにすることができた.この高密度化処理はファンデルワールス力に加えてMWCNT間の結合力が水素結合によって向上することに起因すること考えている. さらに,無撚CNT糸に熱処理を加えることで無撚CNT糸の機械的特性の向上を試みた.CNT単体の外周部と内部のアモルフォスカーボンが消失し,CNT層の配向性が大幅に改善される結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウェブ幅30mmの未処理繊維にPAA/DMASO処理を施すことにより,破断応力1.39GPa,弾性率127GPaを得た.また,ウェブ幅22.5mmの未処理繊維にPAA/DMASO処理を施すことで,破断応力2,21GPa,弾性率202GPaを得た.未処理繊維の繊維密度が低い程,高強度・高剛性繊維となる結果を示しており,高密度化処理の有効性を明らかにすることができた. この結果は当初予想していた強度・剛性より明らかに高く,研究の進捗状況としてはおおむね順調と言える.また,高密度化処理に関して,材料探査を行い,ポリビニルアルコール(PVA)よりポリアクリル酸(PAA)の有効性を確認している.PAA-CNT間の架橋構造の形成ならびにその強化機構を含めて未解明な点が多いが,PVAと比較して,PAAのヒドロキシ基(OH基)の存在が有効であることを実証した結果となっている. ただ,黒鉛化処理に関しては,処理に際していくつかの不具合を検出しており,この点に関しては早急に改善する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
高密度化処理に関してはその有効性を示すことができた.MWCNTの表面にカルボキシル基を付与する化学修飾を行い,水素結合によるPVAとの結合力を増加させることを試みる.今後は,分子動力学的な手法で高強度化のメカニズムに関して調査を進める予定である. また,黒鉛化処理繊維を施すことによって,CNT外周部および内部のアモルフォスカーボンが消失し,CNT層の配向性改善を得ることができた.結果として,この熱処理によってG/D比が大幅に増加し,CNTの結晶性が上昇したことが確認された.適切な黒鉛化処理温度を検討し,除去されたCNT外周部の官能基をどのように修復することが今後の課題となった.
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