研究課題/領域番号 |
15H03906
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
片平 和俊 国立研究開発法人理化学研究所, 大森素形材工学研究室, 専任研究員 (70332252)
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研究分担者 |
小茂鳥 潤 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30225586)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超精密加工 / ダイヤモンド工具 / 大気圧プラズマ |
研究実績の概要 |
本研究は,新しい表面機能制御法として注目されている大気圧低温プラズマジェットを援用することで,加工中のクーラント効果を促進させ,微細ダイヤモンド工具の加工性能を最大限に引き出すことを目的としている.超精密加工中における冷却,潤滑,切り屑除去のためには,効果的な表面親水性が極めて重要な役割を果たす.本研究では,大気圧プラズマジェットを加工点に対しピンポイントで照射することで,クーラント効果の促進を狙っている.当該年度は,サファイアに対した多結晶ダイヤモンド(PCD)工具を用いたミーリング加工を行い,加工条件および加工距離の増加が加工面性状に及ぼす影響について検討するとともに,プラズマ援用クーラントの効果検証を行った.なお,実験には新規導入したプラズマ発生装置(誘電体バリア放電方式)を使用した.プラズマ援用クーラントを用いてPCD微細ミーリング加工を行ったサファイアの加工面を観察した結果,平均表面粗さで3 nm以下という極めて高品位な表面が得られることが確認できた.また,加工面は全面に渡って,延性モードで安定的に加工されていた.加工前および加工後の工具の状態を確認したところ,プラズマジェットを援用したにも関わらず,付着物は抑止できていなかった.よって,サファイア加工におけるプラズマ援用クーラントの効果発現要素とは,被加工物表面の親水性向上による“工具⇔被加工物間極界面”のクーラント性能を向上させる現象が主体的であったと示唆された.さらに,工具寿命改善・加工能率の向上など,他にも当初想定した以上の成果が得られつつある.一方,ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)工具の台頭を見据え,超精密加工技術の達成精度レベルを向上させるためにプラズマ援用クーラントの更なる高機能化,新規アプリケーションの拡充に向けた研究を実行中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の取り組みで,単結晶サファイアの超精密ミーリング加工における大気圧プラズマ援用クーラントの有効性を確認することができた.誘電体バリア放電方式のプラズマ発生装置により高品位なプラズマを長時間安定して照射可能となったこと,独自に設計製作したプラズマガス供給装置により発生したプラズマの迅速評価が可能となったことが本年度の目標達成のカギとなった.これら新規導入した装置類を十分に活用することで研究を継続・加速することができたため,当初想定した以上の成果が得られたものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,“プラズマ援用クーラント条件の最適化,専用システム化”を系統的に実施する.とくに,これまで導入した高分解能CCDもしくはサーモグラフィにより工具表面状態の直接観察も試みる.被加工物の種類によっては,加工中,常に加工点をプラズマで覆い続ける必要があるため,工具の軌跡を先行して動くことができるようなノズルの保持・駆動機構を工夫する.さらに,本手法により,クーラント効果を大幅に促進させることが可能であれば,クーラントミストの吐出量を最小化し,環境負荷を低減(省エネ,廃油が出ない)させる効果,すなわちセミドライ加工MQL(Minimum Quantity Lubrication)との複合化も検討する.一方,本研究の発展的課題として“微細ダイヤモンド工具レーザ成形技術とプラズマ援用クーラント技術の融合連携”を目指す.すなわち,工具の作製から活用まで一気通貫で実現するプロセスチェーン開発である.加工性能(クーラント効果)を最大化させるためには,とくに最適工具形状,レーザ工具成形条件の導出が非常に重要であるので,この点にフォーカスし研究を遂行する.さらに,レーザによる微細ダイヤモンド工具成形時における高品位化もサブテーマとして試みる.すなわち,大気圧プラズマジェットをダイヤモンド工具レーザ成形時の加工焦点にピンポイントで照射することで,プラズマによる酸化抑止効果のみならず,ダイヤモンドのアブレーション除去加工と同時にプラズマガス種(窒素など)の活性種による化学反応を促進させる.ダイヤモンド極表層に反応層(窒化層)を形成することを狙っており,これにより工具使用時の摩擦摩耗特性の改善を図る.
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