血管表面の内皮細胞の損傷は、動脈硬化や動脈瘤などの血管病変の発症の引き金になることが指摘されているが、その機序は未だ十分に理解されていない。本研究は、超音波計測と数値計算の融合解析手法を用いて、内皮細胞を培養した実験流路内に血管疾患の好発部位である頸動脈の血管壁近傍流れ場と圧力場を再現し、内皮細胞の損傷実験と超音波計測融合血流解析を行って、これまで未知であった生体内の血流場が内皮細胞損傷に与える影響を解明することにより、血管疾患の発症に対する内皮細胞近傍場の流体力学的寄与の正確な理解に基づく診断法の確立に貢献することを目的とする。 平成29年度は、臨床応用を考慮し、2次元超音波計測融合血流解析システムを用いて実験を行った。本システムにより、ヒト頸動脈血管壁近傍の血流速度場を解析した。計測は、大学内のボランティアを募り、東北大学流体科学研究所倫理委員会の承認を得た上で行った。超音波プローブにより2次元血管断面形状と血流の超音波ビーム方向速度成分の時空間分布が計測でき、これらを流体解析にフィードバックすることにより拍動に伴って血管壁が変形する場合の血流場を再現した。本システムにより血管変形を考慮した場合の血管壁に作用するせん断応力の変化に関する知見を得た。 また、頸動脈血管壁近傍の血流場を再現するための基礎として、実験流路内の血流による培養内皮細胞の損傷実験を行った。分岐や曲りなどの複雑な形状を有する頸動脈内の非定常血流場における血管壁近傍の流れ場を局所的に再現するための実験として、平行平板流路に斜流を流入した場合の内皮細胞はく離実験を行った。実験に用いる作動流体は、液体の培地のみの場合と培地に赤血球を分散させた場合について行った。内皮細胞は市販のヒト臍帯静脈内皮細胞を用いた。赤血球はヤギの血液から採取し、東北大学動物実験倫理委員会の承認を得た上で行った。
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