本研究では、粘弾性流体の最大抵抗低減領域(MDR領域)における抵抗低減メカニズムを解明するために、界面活性剤水溶液を注入した乱流境界層流れにおける実験、ならびに実験に対応した直接数値シミュレーション(DNS)を実施する。MDR領域では、抵抗低減率が60%を超え、壁面に平行な大規模なシート状構造が壁面近傍に形成される。また、シート状構造の上方には大規模な流れ構造が現れる。その大規模構造の全体像を捉えるために、平成29年度においては、実験では4台のカメラによるマルチカメラPIV計測手法を実施し、数値計算ではコサイン変換法に基づく高速計算手法を用いた直接数値シミュレーションを実施した。実験においては、従来の撮影範囲を4倍に広げることで大規模な乱流渦構造が間欠的に形成され、その流れ方向の大きさは境界層厚さの2~2.5倍程度、壁面垂直方向の大きさは境界層厚さの0.8倍程度になることを見出した。また、大規模構造の発生頻度は0.5~1秒の間隔が最も高いことが明らかになった。さらにシート状構造の壁面垂直方向厚さは境界層厚さの0.2程度であることを明らかにした。一方、DNSにおいては、流れ方向変化を考慮したポリマーエネルギー収支ならびに弾性ポテンシャルエネルギー収支を算出し、チャネル乱流と同様に平均場の生産項と散逸項が支配的であることを明らかにした。さらに、濃度分布を有する抵抗低減境界層流れのDNSを実施し、実験に対応した流れ方向に引き伸ばされた壁面近傍の流れ構造の再現を可能とした。
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