魚卵の凍結保存を可能とすべく,卵膜の親水性を利用した液体メニスカスと事前の脱水処理を組み合わせた新たな凍結保存法を提案し,その可能性を検証している.メニスカスにはトレハロース水溶液を用い,卵内凍結前に外部メニスカスを粥状に凍結して保護膜とし,内外での氷晶生成による機械的ストレスを抑制することが狙いである.これまでに,メダカ卵を用いて,メニスカス凍結,すなわち外部凍結までは卵は生存しているが,卵内凍結を行った場合に,解凍後での生存は確認できていない.そこで,卵内凍結による損傷を低減するため,細胞膜透過型凍害防御剤であるグリセリンを卵内に導入することを考え,その方法と効果をした. まず,グリセリン水溶液に卵を浸漬させる膜透過導入法を試みた.溶液濃度および浸漬時間による卵内凍結温度の変化を示差走査熱量計(DSC)で計測し,凝固点降下や凝固潜熱の低下などから実際に卵内に含まれるグリセリン量を把握した.その結果,浸漬時間は20分で十分なこと,20%までは卵内導入が可能であるが,それ以上の溶液濃度にしても,卵内濃度は高くならず,卵内凍結温度も-30℃以下には下がらないことがわかった. 次に卵内への直接的な凍害防御剤の注入方法として,マイクロマニピュレータを用いたガラスキャピラリーによる穿孔法を検討した.最初に一本のキャピラリーによる注入を試みたが,一回の注入量が0.3μLであり,50%,80%という高濃度のグリセリン溶液を注入しても卵内凍結温度は-30℃以下には下がらなかった.そのため,卵内での溶液置換を行うこととし,注入に加えて抽出を行う二本のキャピラリーを用いた.その結果,50%グリセリン水溶液の注入により-38℃にまで卵内凍結温度を下げることができた. なお,凍結解凍後のメダカの孵化は確認できていないが,卵の形状は保存できている.解凍方法も含め,更なる検討が必要である.
|