研究課題/領域番号 |
15H03943
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
黒澤 実 東京工業大学, 工学院, 准教授 (70170090)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アクチュエータ / 超音波モータ / 摩擦駆動 / 圧電アクチュエータ / 圧電デバイス / 弾性表面波 / レイリー波 / MEMS |
研究実績の概要 |
サファイアガラスを弾性表面波(レイリー波)が伝搬する導波路として用いる弾性表面波モータを実現するため,波動の駆動にはニオブ酸リチウムトランスデューサを用い,導波路と励振器および受波器に別々の材料を用いたハイブリッド構造に依る方式を検討している。本年度は,昨年度試作したモータ動作も可能な実験装置を用いて,作製を行い,弾性表面波の励振状況について詳細を調査し,励振振幅に関する精密な測定と,パワーを投入した実験を行った。 まず,ニオブ酸リチウム素子にサファイヤ基板を押しつけることで,駆動アドミタンスの低下と振幅の低下が起きていることから,単純なIDTのみを設置した素子を用意して,サファイア基板を加圧設置することによるアドミタンス低下について検討を行った。その結果,振動系の等価スチフネスの増加により,動アドミタンス値が20%低下しており,このことが振動振幅低下を引き起こしていることが分かった。 サファイア基板上での振動振幅が低下している現象に関し,波動励振について詳しく調査するため,駆動側の電極のみを設置してアドミタンス特性を調べた。反射波の影響を防ぐため,音響吸収体を設置して測定を行った。その結果,アドミタンスが低下していることから,振動振幅の低下が裏付けられた。更に,振動速度についてレーザードップラー振動計を用いて測定した。サファイア基板未装着時には,駆動電圧20.5Vrmsのとき振動速度0.52m/sであったが,サファイア基板装着後には,駆動電圧21.3Vrmsのとき振動速度0.26m/sとなった。導波路の等価スティフネスが約20%上昇することから,振動速度が低下していると考えられる。 駆動電圧を高くすることでより高い振動速度を得て,モータ駆動が可能であるかどうか検討したが,この状態では十分な振動速度は得られず,モータ駆動の実現には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サファイアガラスを弾性表面波(レイリー波)が伝搬する導波路として用いる弾性表面波モータを実現するため,波動の駆動にはニオブ酸リチウムトランスデューサを用い,導波路と励振器および受波器に別々の材料を用いたハイブリッド構造に依る方式の実験システムを用いて,弾性表面波の励振状況について詳細な調査を進めた。励振振幅に関する検討が進み,モータ動作を得るための高振幅動作に向けて検討が進んだ。 レイリー波の駆動状態をより詳細に測定,解析することを進めた結果,サファイア基板を装着することで,ニオブ酸リチウム単体時より50%程度振動速度が低下している。この原因の一つは,サファイヤ基板の弾性率が高いためであり,これまで以上に高いパワーを必要とすることが分かった。サファイア基板の剛性が高いことを考慮すると,これまでより大きなパワーでの駆動が必要であることが分かる。 現在までに,駆動電圧約21Vで0.26m/sの振動速度が得られている。モータとしての駆動を実現するには,2倍程度の振動速度が得られればよい。また,駆動IDTにサファイア基板を加圧装着した実験結果から,20%程度等価スティフネスが向上してはいるが,共振周波数はほとんど変化しないことが分かっている。このことから,電極構造の基本構成についてはこれまでとほぼ同じでよいことがわかる。 モータとしての動作の実現性を検討するため,よりハイパワーでの駆動実験を行った結果では,動作を実現する振動振幅を得る前に,素子が熱的破壊に至ったため,反射などによる波動の損失を回避すべく構造をさらに検討する必要があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
レイリー波の波動励振に関する実験データから,一昨年はアドミタンス測定値が54mSとなっていたが,昨年の改良した実験では,ニオブ酸リチウムのみの場合よりやや低い値となり,妥当な値となっている。これは,素子据え付け時の問題で反射波により生じていた共振構造を解消したために値が妥当な値になったと考えられる。さらに,波動励振メカニズムの理解と設計指針を明らかにし,効率の改善を進めていく。 受波側のトランスデューサの整合条件に付いては,改良した設置状況での実験を再度行う必要があり,一昨年度には11%の電力しか受波側抵抗器に供給されていない状況であったが,更に検討を進めていく。進行波励振という目的を考えると,波動吸収体を設定して反射波をなくし,進行波励振をすることも考えられるので,両方の方針から検討を行い,進行波励振を実現する。 サファイア基板への波動励振方法としては,電極面をサファイア基板に押し当てる方法の他に,IDT電極で励振されたレイリー波を電極前方でサファイア基板に伝える方も考えられる。この方法では,導波路面同士が全面的に接触することで波動が伝えられるので,効率よく波動伝搬が行われる可能性がある。この方法での励振についても実験的な検討を進める。 また, サファイア/LN構造での波動励振に関して,計算機による数値シミュレーションに依る検討を行う。有限要素法による時間応答解析による数値シミュレーションにより波動励振と伝搬,反射電極の反射特性について検討を行う。 以上の検討により,モータ動作に必要な振動速度での進行波励振の実現を図る。十分な振動速度を持った進行波励振を得ることで,モータとしての摩擦駆動動作を実現する。
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