膜面垂直方向に磁化の容易軸を有する強磁性薄膜と、膜面内に磁化の容易軸を有する強磁性薄膜を接合させた界面に人工的に90度磁壁を導入し、膜面垂直方向にねじれたスピン構造を実現させ、逆DM効果を通じて非線形電気磁気効果の発現を目指した。基板と薄膜間の格子不整合による磁気弾性効果と、薄膜形状による磁気異方性を組み合わせることで、連続して積層される2つの強磁性薄膜のそれぞれの有効磁気異方性定数を正、負とする事が可能であることを前年度までに確認した。さらにねじれたスピン構造実現のために不可欠な界面での磁気結合の存在については、磁気トルク測定による界面交換結合の評価方法を見出しており、これらの知見に基づいて試料を作製構造の設計を行った。 反応性マグネトロンスパッタリング法を用いてMgO(001)基板上にCoフェライト/マグへマイト(001)2層膜を作成し、昨年度に引き続き2層膜をもちいて,電界の有無,その極性を変えてMOKEを用いて磁化曲線の変化を調べた。MOKE測定では、薄膜面垂直方向に磁場を印加し、電界の有無によって膜面内成分の磁化方向が変化することが期待されることから、縦カー効果の感度が高まるような測定を中心に実験を進めた。 λ=450nm、637nm の2種類の波長を用いて測定を試みたところ、450nmでは垂直磁化膜となるCoフェライトの磁化過程に敏感なMOKE信号が得られるのに対し、637nmでは面内磁化膜のマグへマイトに敏感であることから、後者の波長を用いて垂直磁化膜の磁化を固定し実験を行った。その結果、印加電圧の符号に依存して磁化曲線の形状に変化が見られた。これは期待している逆DMに基づいた磁化回転方向の差異と矛盾しないものであった。極カー効果に比べて縦カー効果は、本質的にその信号が弱いため、磁化曲線の評価には統計精度を上げるために数十~数百回磁化測定を行い、平均を求める。
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