研究課題/領域番号 |
15H03968
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 英文 東京大学, 物性研究所, 教授 (40251491)
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研究分担者 |
挾間 優治 東京大学, 物性研究所, 助教 (80759150)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 半導体レーザー / 利得スイッチ / 非線型性 / 光物性 / 半導体物性 |
研究実績の概要 |
半導体材料や半導体レーザーは、極めて超高速の光学応答性を潜在的に有しているが、光強度やキャリア密度に対する強い非線型性の存在とその制御の困難、レーザーダイオードの電気的帯域制限などが障害となり、超高速性はこれまで十分に引き出されてはいない。本研究では、半導体レーザー材料固有の非線型性をむしろ積極的に活用し、数ピコ~フェムト秒の高速パルスを直接駆動で、利得と分極のスイッチ機構により発生することを目的とし、理論解析に対応できる高均一・クリーンな試料を用いて実験を行い、物理機構や限界要因の解明を目指している。もっとも標準的な試料として、高品質のGaAs多重量子井戸およびダブルヘテロ構造レーザー構造試料を作製した。量子井戸数や共振器長を変えた試料を系統的に作製し、導波路全体を一様に光インパルス励起して、ストリークカメラによる時間分解スペクトル測定と自己相関測定、これらにスペクトルフィルタリングを組み合わせた測定を行い、短パルス発生の特徴や限界・制限要因を探索した。実験の結果、1ピコ秒を切るフェムト秒領域のパルス幅が得られること、従来の理解と異なりダブルヘテロ構造に対しする量子井戸構造の優位性は認められずむしろ飽和利得の大きさがより重要であること、従来のシングルモードレーザーレート方程式では説明のつかない現象であることなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年10月に不測の停電事故が発生したためMBE装置のチャンバーおよび材料の汚染が生じてしまい、MBE装置内部の清浄化とセルベークを行う必要が発生し、繰り越しを行った。このため、一時的には研究に遅れが生じたが、MBE装置内部の清浄化とセルベークを行うと同時に、測定系の整備作業を並行して進め、かつ、MBE装置が平常運転可能になってからは研究を加速して順調に進めたため、H28年度末現在までに、遅れを取り戻すことができた。実験結果としても有意義な結果が得られ、多くの論文や学会発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
強励起条件下での発生パルスの短波長成分のみをフィルターで切り出す方法を用いて、フェムト秒領域のパルス発生と、そのパルス評価を進める。H28年度に作製し測定開始したマルチセクション型量子井戸レーザー試料では、可飽和吸収体領域の付加により、フィルターを用いることなく、直接にフェムト秒領域のパルス発生が可能となる可能性があるので、可飽和吸収体領域の位置と長さを変えた試料に対して系統的な測定を行い、フェムト秒パルス発生機構を調べる。 利得セクションに順方向ナノ秒電気パルスもしくは光励起を、過飽和吸収セクションに逆方向直流電圧を印加し、得られたパルス光のダイナミクスを、シンクロスキャン・ストリークカメラを用いた時間・スペクトル分解計測システム、オートコリレータを用いたパルス計測システムなどを用いて評価し、光励起か電流注入励起かに拘わらず、如何なる励起条件を用いれば高速パルスが得られるのかの指針を得る。 半導体レーザーから直接発生できる超短パルスの高速限界を解明し、パルス幅制限機構や、分極発生に連動した利得のスイッチ効果を解明する。
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