研究課題/領域番号 |
15H03970
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
白樫 淳一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00315657)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / FPGA / エレクトロマイグレーション / 単原子トランジスタ / 原子ギャップ |
研究実績の概要 |
本研究では、金属細線でのエレクトロマイグレーション現象を利用し、金属原子を室温で一つずつ移動させることが可能な、新しい原子移動操作技術の開発を行う。具体的には、原子スケールの接点構造である「原子接合」や、原子スケールのギャップ構造「原子ギャップ」を作製する。これらの技術を応用し、原子1個~数個分の島電極を有する単電子トランジスタである「“単原子”トランジスタ」の実現を目指す。技術的には、金属細線でのエレクトロマイグレーションの発現強度を、印加電圧のその場フィードバック制御により調整する。本研究では、Field-Programmable Gate Array(FPGA)を用いたカスタムハードウェアを独自に構築し、原子を高速に移動制御する技術を開発する。これより、“エレクトロマイグレーション”という簡単な手法にて原子スケールデバイス技法の開拓を行い、単原子機能の発現・制御手法の確立を目指す。 次年度(平成28年度)では、FPGAを利用した電圧フィードバック制御型エレクトロマイグレーション専用のカスタムハードウェアを構築した。実際に、FPGAカスタムハードウェアを用いて、Au細線に対して電圧フィードバック制御型エレクトロマイグレーション法を適用した。印加電圧の超高速なフィードバックを繰り返しながら計測制御が進行していることが確認でき、プロセス時間に注目すると、300ミリ秒で処理プロセスが終了し、構築したシステムによる計測制御の時間間隔がマイクロ秒オーダーであることが明らかとなった。また、当該制御プロセス中におけるAu細線でのコンダクタンスは量子化され、離散的に変化した。これはエレクトロマイグレーションによりAu細線が徐々に狭窄化され、室温下において量子ポイントコンタクト(=原子が1個~数10個ほどで形成された原子スケールの接合構造)が形成されたことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、FPGAを用いた専用カスタムハードウェアによる超高速エレクトロマイグレーション計測制御技法を開発し、Au細線のコンダクタンスが300ミリ秒で1G0以下まで減少していることが確認した。これより、Au細線の狭窄部では、制御プロセス開始から180ミリ秒ほどで原子数が1~2個の原子接合が形成され、その後、185-190ミリ秒ほどで、狭窄部の原子数が1個以下となり、原子スケールのギャップ構造(=トンネルギャップ)が形成されたことが明らかとなった。これより、原子接合や原子ギャップなどの原子スケール構造体をミリ秒という時間スケールで超高速に制御可能な作製技術の開発に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度(平成29年度)では、これまでに開発してきたFPGAを用いた専用カスタムハードウェアによる超高速エレクトロマイグレーション計測制御技術により、アイランド電極のサイズが原子1個~数個ほどの単原子トランジスタ(Single-Atom Transistor: SAT)の開発を目指す。本研究で検討してきた「原子接合」や「原子ギャップ」の作製過程を精緻に制御することで、数ナノメートルのギャップ空間内に原子1個~数個を配置させることで、SAT構造を作製する。これは、究極的な単電子トランジスタと考えられ、いわば固体素子において、アイランドに存在する単原子の電子親和力やイオン化エネルギー(=電子状態)を直接制御できる可能性がある。
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