研究課題/領域番号 |
15H03981
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
海住 英生 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (70396323)
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研究分担者 |
西井 準治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60357697)
長浜 太郎 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (20357651)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 強磁性トンネル接合 / 磁気キャパシタンス効果 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
強磁性層/絶縁層/強磁性層から構成される強磁性トンネル接合(MTJ)は室温にて巨大なトンネル磁気抵抗(TMR)効果を示すことから、近年、国内外で盛んに研究が進められている。この磁気感度の指標を示すTMR比は、現在、室温にて600%を超える。一方で、MTJは、室温にてトンネル磁気キャパシタンス(TMC)効果も示す。しかしながら、TMC比は50%程度に留まっており、また、そのメカニズムも明らかになっていない。そこで、本研究課題では、TMC比の向上を目指すとともに、そのメカニズムを解明することを目的とした。本研究課題の推進は、ナノ構造中の交流スピンダイナミクスに関する新たな学術的知見を提供するとともに、次世代革新的超高性能・低消費電力メモリ素子の実現に向けた新たな設計指針を導くと期待できる。 昨年度、本研究課題の推進により、従来値を凌駕する155%のTMC比の観測に初めて成功した。また、これまで解明されていなかったTMC効果の起源がDebye-Frohlich (DF)モデルに基づく理論計算により初めて明らかになった。このような研究成果に基づき、当該年度は、マグネタイトを強磁性電極に用いたMTJ素子を作製し、その磁気キャパシタンス効果を調べた。その結果、磁化平行状態のときキャパシタンスが小さく、反平行状態のときキャパシタンスが大きくなる、Inverse TMC効果を観測することに初めて成功した。また、本効果の起源を理論・実験の両面から検討した結果、Zhang 理論とParabolic barrier approximation (PBA)を導入したDFモデル、及びSpin-dependent drift diffusion (SDD)モデルにより実験結果を定量的に説明できることがわかった。本理論計算によれば、TMC比は300%を超えることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を推進することにより、従来値を凌駕する155%のTMC比を観測することに初めて成功した。また、これまで解明されていなかったTMC効果の起源がDFモデルに基づく理論計算により初めて明らかになった。本理論計算によれば、更なるTMC比の向上が期待できる。さらに、通常のTMC効果のみならず、Inverse TMC効果を観測することにも成功した。これらの結果は研究実施計画に従って得られた研究成果であり、これにより平成29年度の研究内容を予定通り遂行できるものと考えられる。このような事由から本研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27~28年度の研究成果に基づき、平成29年度は、非平衡TMC効果について調査するとともに、更なるTMC比の向上を目指す。 非平衡TMC効果では直流バイアスに対するロバスト性が期待できるため、更なるTMC比の向上が期待できる。また、非平衡TMC効果は、理論的にまだ明らかにされていないため、そのメカニズムを解明することは学術的に極めて大きなインパクトを与える。 本効果を実験的に調査するため、MTJ素子を作製し、TMC効果の直流バイアス依存性、及び周波数特性を調べる。MTJ素子の作製には超高真空マグネトロンスパッタ装置を用いる。強磁性層にはコバルト鉄ホウ素合金を用い、絶縁層には酸化マグネシウムを用いる。それぞれの膜厚は数ナノメートルとする。TMC効果の測定には昨年度構築した交流4端子法による磁場中インピーダンス測定システムを用いる。 理論面からは、SDDモデルとQuartic barrier approximation (QBA)を導入したDFモデルに基づく新たな計算モデルを提案し、検討する。理論・実験の両面から比較検討を行うことで、非平衡TMC効果のメカニズムを明らかにするとともに、TMC比の向上を目指す。これにより、平衡・非平衡TMC効果に関する先導的かつ包括的研究を世界に先駆け推進し、新たな学際領域である交流スピントロニクス研究分野の基礎を築く。
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