研究課題/領域番号 |
15H03995
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松山 公秀 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (80165919)
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研究分担者 |
田中 輝光 九州大学, システム情報科学研究院, 助教 (20423387)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電子デバイス・機器 / スピン波 / マグノニクス / スピンエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
・異種磁性層の界面交換結合と微細加工により創出される3次元スピン波のダイナミク解明と機能応用に向け,本年度は以下のような研究成果を得た.
1) 10 GHz以上の高周波域での高効率スピン波励起が可能な,高磁気異方性・低磁気損失のスピン波媒体候補として,MnGa/Co, MnGa/NiFe, FePd/Fe, [(Co/Ni)]n/Co等の多層薄膜の各々について,成膜条件,組成比,膜厚と磁気特性との相関を系統的に調べた.マグネトロンスパッタリング法により作成した種々の試料のうちMnGa(100nm)/NiFe(5nm),[Co(0.2nm)/Ni(0,8nm)]5/Co(1.2nm)については,膜面垂直方向への磁界掃引に対する良好な角型磁気ヒステリシス特性と,両層間の界面交換結合を示唆する顕著な保磁力の低減を確認した.L10規則格子形成に必要な400°以上の基板加熱成膜に対応可能なArイオンミリング工程を含む素子微細加工プロセスを確立し,40GHzまでの局所マイクロ波磁界印加による3次元マグノンの発生及び誘導法による伝搬評価実験に着手した.
2) 3次元マグノンの機能応用として,面内磁化層(IMA)の上下に垂直磁気異方性層(PMA)を交換結合した記憶論理一体型素子の設計,及びマイクロマグネティクスシミュレーションによる動作検証を行った.スピン波共鳴周波数に合せたマイクロ波交流磁界とスピン偏極電流との相乗効果による各PMA層磁化の選択的反転(情報書込動作)と,記憶情報間の論理演算出力に対応したスピン波共鳴励起モードを確認した.また,上記積層構造により形成した磁性細線において,IMA層中に形成されるスピンツイスト構造が3次元マグノンを低損失に伝搬可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多元マグネトロンスパッタリング法における成膜条件(基板温度,成膜後熱処理温度,成膜レート)及び膜組成を適正化することにより,ミリ波域におけるマグノン伝搬に必要な高飽和磁化特性と垂直磁気異方性を備えたMnGa垂直磁化膜の作製に成功した.MnGa/NiFe, MnGa/Co等の2層膜においては.界面間の交換結合を示唆する顕著な磁気ヒステリシス特性の変調効果を確認した.また,微細加工により形成したスピン波伝送系とコプレーナ構造ミリ波伝送系からなる高感度スピン波ダイナミクス評価系を構築し,ベクトルネットワークアナライザーによる伝送パラメータ評価を行った.さらに,計算機シミュレーションにより,微細加工された交換結合多層膜における3次元スピン波の機能応用に向けた材料系及び素子構造に関する設計指針を明確化した.以上,研究目的達成に向けた,材料系開発,基本動作の評価実験等が順調に行われた.
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今後の研究の推進方策 |
交換結合多層膜を微細加工したスピン波媒体に,ミリ波域信号入出力のための複数の伝送線を配した評価素子を作製し,3次元マグノンを介した機能動作実験を行う.具体的には,スピン波共鳴励起による各層の選択的磁化反転(情報記録)や,マグノン間の位相干渉を利用した論理演算等について動作検証実験を行う.入力伝送線を伝搬する入力信号が作る交流磁界によりマグノンを励起し,マグノンと出力伝送線との誘導結合により電気信号に変換し,シグナルアナライザーを用いてスペクトル解析を行う.評価実験結果と計算機シミュレーションとの比較対応により,交換結合多層膜における膜厚方向のスピン配列状態を反映した3次元マグノンのダイナミクを明らかにすると共に,実用的な動作性能達成に向けた素子構造の最適化を行う.
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