研究課題/領域番号 |
15H03997
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
内田 建 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30446900)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ構造 / 不純物 / イオン化エネルギー / 量子効果 / 誘電率 / 熱伝導率測定 |
研究実績の概要 |
本年度は,(I)ナノワイヤトランジスタの特性予測と(II)熱伝導率の測定手法の構築について進展があった. (I)ナノワイヤトランジスタの特性予測については,以下のようにナノワイヤ中不純物のイオン化率理解について進展があった.昨年度にナノ薄膜(2次元)のトランジスタを利用して,ナノ構造ではイオン化エネルギーが増大し寄生抵抗が大きくなることを実験的に明らかにするとともに,理論的なモデリングも行った.本年度は,この結果をさらに低次元の1次元ナノワイヤトランジスタに発展させた.断面が2.2 nm x 2.2 nmかつ長さが10 nm程度のナノワイヤを準備し,このナノワイヤ中に不純物を2個配置した.不純物の間隔を変化させることで,不純物イオン化率の不純物濃度(1/不純物の間隔/断面積)依存性を調べた.はじめに,不純物を高濃度化するとフェルミ準位が上昇することに伴いイオン化率は低下する.しかし,さらに高濃度化すると不純物準位が非局在化することでイオン化率が上昇することが明らかになった.この効果はバルク半導体では定性的に理解され,経験的なパラメータを用いて記述されているが,ナノワイヤ半導体では未だ議論されていない.来年度以降,より定量的な議論ができるよう発展させていく. (II)熱伝導率の測定手法の構築では,3ωの測定周波数は昨年度よりも,さらに高周波数側まで帯域を拡張することに成功した.より詳細な解析を行うためには,帯域をさらに1桁程度高周波側に拡張する必要があり,測定回路の改善などで平成29年度には達成を予定している.また,本年度は原子層堆積装置を用いたゲートスタック構造が電気特性的に安定なものを作製できるようになっており,次年度での熱特性計測の準備が整った.さらに,本年度は熱伝導率測定の自動化を推進しており,次年度に多くの実験データを蓄積するための準備が進んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに作成したナノワイヤトランジスタの特性を計算する量子シミュレータを利用し,不純物イオン化率の不純物濃度依存性を計算することに成功した.ナノワイヤ半導体はバンド構造はサイズに敏感に反応し,不純物準位も不純物の位置や濃度に敏感に反応する.そのため,バルクで用いられた各種パラメータ(例えばイオン化エネルギーなど)については,定義を含めて議論をする必要があり,極めて難易度が高い.しかし,パラメータを系統的に変化させ,バルク特性との比較を徹底的に行うことで,研究を発散させずに,順調に進展していると考える. 実験的にも,原子層堆積装置によるゲートスタック構造が電気的に安定なものを作製できる段階まで来ており,次年度にゲートスタックの熱特性を測定する準備が整っている. 以上の理由により,研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,原子層堆積装置(ALD: Atomic Layer Deposition)によって成膜した高誘電率絶縁膜の熱特性を測定する.また,得られた熱特性をナノワイヤトランジスタの特性シミュレーションに反映させる.現代のMOSトランジスタはゲート絶縁膜の成膜に原子層堆積装置を利用している.原子層堆積装置によって堆積した絶縁膜の電気特性は,かならずしも理想的な特性とは一致しない.同様に,熱特性についても理想的な特性と乖離しているものと予測されるが,系統的な実験データは未だ発表されていない.さらに,電気特性と熱特性の間には一定の相関関係があると予測されるが,このような異なる特性間の相関を調べた研究は行われていない.ナノスケールトランジスタの特性予測には,絶縁膜の電気的特性,熱的特性,光学的特性(屈折率)のすべてが高精度に分かっている必要がある.昨年度までに完成した量子シミュレータに,実験的に求めた精度の高いパラメータを反映させることで,将来トランジスタの最適構造について有益な知見を得ることを目指す.
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