研究課題/領域番号 |
15H04002
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田中 聡久 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70360584)
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研究分担者 |
曹 建庭 埼玉工業大学, 工学部, 教授 (20306989)
東 広志 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70734474)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 視覚刺激 / 信号処理 / 機械学習 / 脳 / BMI |
研究実績の概要 |
周期的な視覚刺激により誘発される定常的視覚誘発電位 (SSVEP) は,脳コンピュータインタフェース(BCI)への応用だけでなく,脳の視覚情報処理機構を知る上で大きな役割を果たす反応である.刺激入力に対する反応を正確に測定するには,その周波数と位相を正しく推定する必要がある.平成27年度では,正確かつ短時間でのコマンド入力を実現するため以下の研究を実施した. 1. マルチセット正準相関分析 (Mset CCA) を利用したSSVEPの周波数/位相識別手法を新たに提案した.Mset CCAは,3つ以上のデータセット間の相関を測る解析手法である.提案手法では,まずテストデータ,人工参照信号,トレーニング参照信号の3つのデータセット間のMset CCAにより脳波の刺激周波数成分を大きくするような重みベクトルを求める.ここで,人工参照信号は視覚刺激と同じ周波数を持つ正弦波であり,トレーニング参照信号はトレーニングセットのトライアル平均である.次に,求めた重みを用いて,テストデータの重み付き線形和とトレーニング参照信号の重み付き線形和間の相関係数を求め,それらの大きさによりSSVEPの周波数および位相を識別する.実験により記録した脳波をオフラインで解析した結果,提案手法は従来手法よりも高い識別率と情報伝達率を示した. 2. 2チャンネルのフィルタバンクを正準相関分析法に応用した,Binary CCA (BsCCA) 法を構築した.この方法では,2種類のサブバンドを,片方がもう一方を包含する形で設計し,それぞれのサブバンドにおいてフィルタ後の参照信号と正準相関分析で相関係数を求める方法である.計算機実験の結果,周波数識別に限っては,最先端の手法より高い情報伝達特性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 点滅刺激を提示するシステムを設計・実装し,様々な周波数(5~30 Hz 程度)で点滅させたときの脳波を測定し,記録する.予定では,少なくとも20 人程度の被験者を確保し,様々な周波数,また様々な位相に対する刺激を提示する.事になっていたが,実際に実験を実施した被験者は10名程度であった.統計的検定によって手法の有効性が確保されているが,より多くの被験者を確保する必要がある. 2. 「脳の SIMO モデル」による信号処理手法を確立し,データと教師ラベルの2乗誤差,および重みに関する l1 正則化項を付加した 評価関数を最小化することで重みを決定する予定であった.アルゴリズムの構築に成功し,計算機シミュレーションで有効性の確認をしたため,順調に進んでいるといえる. 3. 位相を検出するには目的信号の周波数を知る必要がある.ここでは,誘発電位の周波数推定に有効な正準相関法,周波数と位相をスパース推定できる手法を構築する計画であったが,周波数と位相を同時に検出する高精度な手法の構築には成功した.スパース推定に関しては,現在さらなる検討をしている.
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者等との連絡をより密に取り,研究経過の報告会を頻繁に実施しながら,以下のように研究を進めていく. まず,PSK/FSK-BMI の実装と評価画面上に,異なる位相・周波数の組み合わせバターンの点滅刺激を複数用意し,それぞれに異なるコマンドを割り当てる.ユーザはひとつの刺激を注視し,脳波に現れる位相を検波することで,注視 しているターゲットを識別する.研究代表者らは,すでに周波数偏移変調(FSK)によるもの(業績 [10])ため,このプラットフォームに前年の結果を用いて,PSK/FSK-BMI を実装することを試みる.性能評価のために,コマンド識別率と,情報伝達率(時間あたりのビットレート)を測定し,有効性を確認する. つぎに,視覚刺激(光点滅や画像点滅)を呈示したとき,脳波から高調波成分を抽出する理論(背景脳波を抽出してはいけない),並びにそれぞれの高調波成分に対応する空間分布 を推定する理論を構築する.高調波成分の抽出は,時間方向のフィルタリングであり,空間分布の推定は空間方向のフィルタリングである.したがって,この問題は,それぞれのフィルタ設計問題に帰着され,とくに空間方向に関してはスパース性を課す必要がある.したがって,複数パラメータの非凸(それぞれのパラメータに関しては凸)なスパース正則化問題として定式化すればよいが,定式化にあ たっては,研究代表者らの成果(業績 [11])や,スパース主成分分析を参考にする.また,最適化については,交互最適化法と ADMM 法を用いることで解決する. それぞれの高調波に対応するスパースな空間重みを推定することで,ヒトの顔知覚のプロセスの解明 におおきく寄与することが期待できる.
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