研究課題/領域番号 |
15H04017
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
穂積 直裕 豊橋技術科学大学, 国際協力センター, 教授 (30314090)
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研究分担者 |
西條 芳文 東北大学, 医工学研究科, 教授 (00292277)
田中 直彦 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (10255648)
吉田 祥子 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (40222393)
山本 清二 浜松医科大学, 学内共同利用施設等, 理事 (60144094)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超音波顕微鏡 / 生体細胞 / 粘弾性イメージング |
研究実績の概要 |
本研究では、再生医療や動物実験を伴わない薬剤効果の評価などへの応用を目指し、広帯域集束超音波を用いて生体細胞を定量観察し、粘弾性パラメータによる2次元プロファイルとして表示するシステムの実現を目指す。平成28年度は走査装置を高速化するとともに、実際に細胞を培養して非侵襲連続観察を行い、データを蓄積した。 (1) 培養細胞に集束させた超音波の反射波形の取得:集束超音波ビームを細胞培養したプラスチック基板に対して入射させ、その応答(反射)を、視野の中で「細胞がない部分」と「ある部分」について測定・比較することにより細胞の音響インピーダンス分布を推定した。「細胞がない部分」からの反射には培養液の音響物性が反映されるため、これを参照波形として利用した。 (2) 音響パラメータの取得:音速および音響インピーダンスの測定は、組織切片を対象としたものでは既に開発が概ね終了しているが、細胞レベルでは厚さが極端に薄くなることから、信頼できる測定が行われるに至っていない。本年度は細胞レベルの測定に際し、振動子の走査装置の微振動を抑制するため中程度の走査範囲(300ミクロン程度)の圧電走査装置を導入し、データ取得を行った。また、波形分離アルゴリズムを改良し、3次元形状を考慮した細胞内の粘弾性分布表示方法を検討した。 (3) 分化過程の定量観察:培養細胞は培養器表面に密着しているとは限らず、分化の過程で3次元構造が変化するとともに、培養器表面からの剥離を生じることが判ったため、これらの状況を超音波の反射波形から波形分離の手法を用いて把握する方法を検討した。実際のデータに適用し、分化とともに剥離が発生することを見極め、剥離距離を考慮した上で細胞本体の音響インピーダンス値を補正計算する方法を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標である、データ取得と、音場解析結果から粘弾性を推定するプログラムの作成が完了していること、および、その成果を利用して細胞の分化過程などのデータ取得に成功していることなどから、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 細胞の分化過程の定量観察と評価 万能細胞等からの分化過程を定量観察し、その評価を行う。心筋に分化する細胞は、一方向性の収縮が可能となるため、未分化の状態から細胞骨格が変化し、これが音響物性および粘弾性に反映されると予測される。超音波の反射・透過特性から粘弾性を推定し、分化過程との対応を見極める。この結果は、心筋梗塞の治療に使用できる心筋シート作製過程における状態モニタ手法として再生医療に応用できる。また、未分化細胞の混入は発癌リスクを高める可能性があることから、音響物性をもとに、個々の細胞のうち未分化細胞のみをハイライトする手法を検討する。さらに、ハイライトされた未分化細胞を光学的あるいは音響的手法で選択的に壊死させ、再生医療の安全性を向上させる方法について検討する。 (2) 投薬効果の定量観察と評価 動物実験によらない投薬効果の評価方法の確立を目指し、投薬後の音響パラメータの変化を定量観察する。抗癌剤の成分として含まれるサイトカラシンBが細胞骨格の選択的に脱重合を加速することを縦波音響インピーダンスに加え、横波音響インピーダンス、縦波・横波音速、減衰定数などの音響パラメータで連続的に捉え、粘弾性プロファイルに変換する。異なる種類の投薬による効果の違いを確認する。正常細胞と癌細胞を共培養し、同じ種類の薬物が両者を攻撃する過程の違いを評価する。これらにより、提案する方法が投薬効果の評価手法として利用できることを実証する。
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