研究課題/領域番号 |
15H04027
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
原田 哲夫 長崎大学, 工学研究科, 教授 (50136636)
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研究分担者 |
佐々木 謙二 長崎大学, 工学研究科, 助教 (20575394)
玉井 宏章 長崎大学, 工学研究科, 教授 (80207224)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歴史的構造物 / 保存活用 / 補修 / 補強 / 軍艦島 |
研究実績の概要 |
本研究を構成する4つのサブテーマごとに,本年度の研究業績の概要を以下にまとめる. Ⅰ.護岸構造物の構造的健全度の現状調査と追跡定点観測:定点観測ポイントにおいて,護岸コンクリートのひび割れ幅,コンクリート部と石積部の肌別れ幅のモニタリング調査を継続実施した.また薄板モルタル試験体による塩害環境調査を軍艦島全体において継続実施し,軍艦島島内の塩害環境の空間的,季節的変動の基礎データを収集した. Ⅱ.護岸構造物および建築物の補修・補強工法の開発と技術提案:軍艦島特有の補強に対する制約条件を踏まえて,補強システムとして, CFRPアンカートラス構造,高性能コンクリート箱板圧着構造を提案した.提案の構造では,CFRPより線を緊張材としたポストテンション方式によってプレストレスを導入するため,その定着工法が重要となる.定着工法は筆者らが開発した定着用膨張材(HEM)を用いる工法を提案しており,その長期耐久性について14.5年間緊張状態にある試験体において調べ,緊張力の低下はCFRPより線のリラクセーションの影響が大きいこと,化学分析結果からHEMの膨張圧の長期安定性を確認した. Ⅲ.過酷環境下に供用された高経年コンクリートの材料的調査:長崎市より提供された護岸より採取されたコンクリートコアを用いて,中性化深さ,圧縮強度,静弾性係数の測定を実施した.中性化深さは小さく,圧縮強度,静弾性係数ともに問題ないことを確認した. Ⅳ.過酷環境下における補修・補強材料の性能評価とそれらを用いた施工法の提案:長崎市により実施された16号棟の補修工事の対象箇所の鉄筋腐食調査を継続実施し,軍艦島の実構造物における補修効果のデータの蓄積を図った.また,腐食センサーを埋め込み表面含浸材を塗布したコンクリート試験体についても鉄筋腐食調査を継続的に実施し,表面含浸材の腐食抑制効果が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究期間は4年を予定しており,さらに現地における継続的なモニタリング調査や暴露試験を必要とする研究内容であることから,これまでの3年間はモニタリング調査や暴露試験を実施することを優先させた.モニタリング調査や暴露試験について,一部を除いて計画通り開始することができた.また,軍艦島の所有者である長崎市との連携のもと,文化財特有の制約条件を受けながらも,研究計画を当初よりも拡張させて進めることができた部分もある.したがって,本研究のこれまでの3年間の成果としては,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究を構成する4つのサブテーマごとに,今後の研究の推進方策を以下にまとめる. Ⅰ.護岸構造物の構造的健全度の現状調査と追跡定点観測:護岸コンクリートのひび割れ幅,コンクリート部と石積部の肌別れ幅の定点観測を継続する.また,薄板モルタル試験体による塩害環境評価についても継続して実施し,データの蓄積を図る. Ⅱ.護岸構造物および建築物の補修・補強工法の開発と技術提案:代表的な建物(たとえば16号棟)について現状のRC構造の劣化度と構造形式を調査して構造解析モデルを構築する.その後,PUSHOVER解析を行って水平耐荷性能を評価すると共に,提案する工法を適用した場合の耐荷性能の向上度をチェックする.また,あわせて特徴的な大正期の鉄筋カーンバーを用いたRC梁について載荷実験を行って,基礎的データを収集する. Ⅲ.過酷環境下に供用された高経年コンクリートの材料的調査:本年度未実施の護岸より採取されたコンクリートコアの塩化物イオン量分布,細孔径分布測定を実施し,過酷環境下に供用された高経年コンクリートの長期耐久性に関するデータを収集する. Ⅳ.過酷環境下における補修・補強材料の性能評価とそれらを用いた施工法の提案:長崎市により実施された16号棟の補修工事箇所のコンクリートおよび鉄筋のモニタリング調査を継続実施し,軍艦島の実構造物における補修効果のデータの蓄積を図る.また,表面含浸材を塗布したコンクリート試験体のモニタリング調査も継続的に実施する.
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