研究課題/領域番号 |
15H04029
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
睦好 宏史 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60134334)
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研究分担者 |
岩城 一郎 日本大学, 工学部, 教授 (20282113)
欒 堯 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (20725288)
浅本 晋吾 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50436333)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | PC鋼材 / 腐食 / 維持管理 / PC橋 / 再注入グラウト / イオン交換樹脂 / ひび割れ自己治癒 |
研究実績の概要 |
本研究は,プレストレストコンクリート(PC)橋の維持・管理,長寿命化を確立しようとするものである。PC鋼材が腐食により断面欠損・破断が生じたPC部材の力学的性状について、以下のことが明らかとなった。 (1) 電食により強制的にPC鋼材を腐食させた。腐食範囲200mm当りの質量減少率に着目した場合,本実験では腐食による質量減少率が7%程度の差で腐食によるPC鋼材破断状況が大きく異なり、質量減少率20%~25%程度を境として破断が生じていると考えられる。(2) 腐食したPC鋼材を有するPC梁は、同等の質量減少率であってもPC鋼材の破断荷重にバラつきが生じる。これは、PC鋼より線の素線単位で腐食度合が異なるためと考えらえる。(3) 質量減少率が26%の供試体では、他のケースに比べて腐食によるPC鋼材破断の影響が大きく、ひび割れ発生モーメントの低下、鉄筋およびPC鋼材の降伏に伴う剛性低下が顕著となった。(4) PC鋼材の腐食損傷箇所が支点寄りになった場合は、破壊抵抗曲げモーメントの低下が小さくなった。これは、破断したPC鋼材も支間中央では付着を回復し、引張抵抗材として機能するためである。(5) グラウトの再注入による耐荷力の回復が明らかとなった。 イオン交換樹脂を混入した再注入グラウトの開発では、最適な配合を明らかにするとともに、塩化物イオン吸着効果を実験により明らかにし、実構造物に適用可能であることが明らかとなった。 ひび割れが生じたPC橋のひび割れ治癒技術について、微生物を利用した手法を開発した。すなわち、バチルス菌を用いることによって、高アルカリ環境において生存が可能で、ひび割れを自己治癒できることが明らかとなった。また、アルカリ骨材反応により、ひび割れが発生したコンクリート供試体を作製し、ひび割れ治癒効果についても実験を行い、効果があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、プレストレストコンクリート(PC)橋の維持・管理、長寿命化を確立するものである。本研究は以下に示す3つの研究開発から成る。①既設PC橋において、グラウトが未充填または一部未充填の場合、塩化物イオンを吸収(除去)するイオン交換樹脂混入再注入グラウトの開発、②腐食により断面欠損あるいは破断したPC橋を対象にして、破断したPC鋼材位置の探査法の開発、橋全体の使用状態から終局状態に至る力学的性状の実験的解明、グラウトの充填度を考慮して、鋼材が破断した場合の性状を解析的に求める手法を明らかにする、③ひび割れが生じたPC橋のひび割れ自己治癒技術について、微生物を利用した手法を開発し、現在大きな問題となっているPC橋の長寿命化に貢献しようとするものである。 ①については当初の計画通り進んでおり、可使時間を考慮した、最適な配合を明らかにしており、今後は実施工が行える段階にまできている。②については、平成27年度は人為的にPC鋼材を破断させたが、平成28年度は、局所的電食実験を行って、腐食によりPC鋼材を破断させた場合のPC部材の力学的性状を明らかにした。腐食による断面欠損により耐荷力は低下するが、グラウトが十分充填されていれば、付着長を超えた領域では耐荷力は低下しないことが実験的に明らかとなった。今後は、PC鋼材が腐食により破断あるいは断面欠損したPC橋の解析的解明が必要である。③については、アルカリ骨材反応等によりひび割れが発生したPC橋を対象にして、微生物を用いたひび割れ治癒技術を開発するものである。今年度はバチルス菌を用いることによって、当初の計画をおおむね達成できる目処が付いた。以上のように、研究は当初の計画以上に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1)PC鋼材が腐食により断面欠損あるいは破断が生じたPC部材の力学的性状の解明では、 腐食によりPC鋼材が断面欠損あるいは破断したPC部材の終局に至る力学的性状を載荷実験及び解析的に明らかにして、補強設計に反映することを目的とする。実験は、PC鋼より線を電食により腐食させ、断面欠損させる。実験要因は、①断面欠損量および破断量、②グラウトの充填度(完全充填、半分程度充填、未充填)、③欠損部(破断部)の付着切れ長さ、④破断位置間(付着長よりも長い場合と短い場合)の長さ、④断面欠損後のグラウトの再注入とする。載荷は一方向載荷とし、破壊に至るまで行う。上記の実験条件をモデル化して、解析的にシミュレーションできる手法を開発する。グラウトの充填度あるいは付着切れについては、外ケーブルPC構造解析に用いられる、変形の適合条件を部分的に取り入れて行うものとする。これにより、経年劣化損傷したPC橋の耐荷力(健全度)を明らかにすることができる。 2)腐食などにより、断面欠損あるいは破断したPC鋼材を有するはりの破断・欠損箇所が精度よく特定できる手法を漏洩磁束法により開発する。すなわち、磁束密度をフーリエ解析することなどにより、人為的誤差がないような手法を開発する。 2)アルカリ骨材反応等により、ひび割れが多数発生したPC橋を対象にして、微生物を用いたひび割れ治癒技術の開発を行う。これまでに、イースト菌などを用いてひび割れが自己治癒できることを明らかにしてきたが、今年度は、アルカリに強く、温度変化にも耐えられ、二酸化炭素を多量に輩出するバクテリアを探して実用化につなげることを目指す。 3)経年あるいは塩害により劣化損傷したPC橋に対する、力学的評価、長寿命化を目指した補修法などを新たに提案する。
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