研究課題/領域番号 |
15H04040
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研究機関 | 大同大学 |
研究代表者 |
棚橋 秀行 大同大学, 工学部, 教授 (00283234)
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研究分担者 |
菊本 統 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (90508342)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 土壌汚染浄化 / 環境技術 / 地盤工学 / 土壌圏現象 |
研究実績の概要 |
工場から地盤内に漏洩した機械油に対し、本研究では、流れ場制御による浄化技術を新たに着想した。1)互いに反応して発泡する2種類の界面活性剤の水溶液を投与し、2) 増粘剤添加液の浄化完了域封鎖による、浄化未完了域に対する投与の効率化、そして3)反応帯を上方に徐々に移動させ、下から上にスキャンするようにムラなく汚染油を回収する、という技術である。昨年(2015年)の実験において、小型土槽(幅60cm)を用いた実験で最も効果的であった界面活性剤の投与パターン3つにより大型土槽(幅2m)を用いた浄化実験を行ったが、下流側で汚染油が残留した。これは界面活性剤の脈動が上流から1mほどまでしか及ばず、下流側では機械油の下方を定常流的に通過しているためであることが明らかになった。また、下流側の吸引パターン制御による水位下降・上昇による地盤内の油分の全体的な乳化・可動化は、界面活性剤の投与パターン制御による流れ脈動よりも地盤内の流れ場に与えるインパクトが大きいと思われた。2015年度の実験では小型土槽実験での結果が大型土槽実験では役に立たないことがほとんどであったので、今年(2016年)は大型土槽実験のみを行った。着目点は以下の③つである。着目点①互いに反応して発泡する2種類の界面活性剤の水溶液を投与することによる乳化促進工程の効率化。着目点②増粘剤添加液の浄化完了域封鎖による、浄化未完了域に対する投与の効率化。着目点③界面活性剤と汚染油の反応帯を上方に徐々に移動させ、下から上にスキャンするようにムラなく汚染油を回収する手順の最適化。上記着目点①②③の工程は組み合わせて実施することも可能であるが、性能評価の精度を上げるため、それぞれを独立した実験として浄化完了まで実施し、浄化の進行データを記録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
着目点①についての実験では、発泡ポイントが最上流に偏らないよう投与パターンの工夫を行った。これまでに小型土槽実験では何度も成功していたが、今年の実験ではこの工夫により地盤全体の汚染油を乳化し、大型土槽を用いた実験としては本研究室で初めて成功することができた。また、現在使用している界面活性剤は機械油の乳化性能は優れているものの起泡性は小さいので、発泡促剤の添加も試みた。結果的には気泡が過剰に発生したわりには油が残留してしまったが、乳化は促進されることが確認できたので、【乳化・発泡反応時間】→【輸送・発泡休止時間】→【乳化・発泡反応時間】というパターンでの繰り返しが効果的であることを見出すことに至った。 着目点②についての実験では、主に吸引ノズルの形状変更により、増粘剤添加液の浄化完了域封鎖による浄化未完了域に対する界面活性剤投与の効率化に成功することができた。これにより、新たな発想を得た。増粘剤を使用するのではなく、現在使用している界面活性剤よりも低粘性の界面活性剤を併用するアイデアである。これにより、浄化の進行が促進するものと考え実験を行なった。実験回数がまだ少ないので、いまのところ好ましい結果は得られていないが、低粘性の界面活性剤の注入流速と注入位置について今後につながる知見が得られた。 着目点③についての実験では、2つの吸引ポイントを使うだけで、およそ2 pore volumeという少量でも汚染の浄化ができるに至った。水位を下降・上昇させるこの制御はこれまでの界面活性剤を横からぶつける方法よりも界面活性剤との接触面積が飛躍的に大きくなるため地盤内の油分を全体的に乳化・可動化させる効果が大きいことが確認できた。 このように、今年度の実験の問題点に対する検討を通じて、新しい技術を着想するに至ったことから、おおむね順調に進展している、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、従来の大型土槽実験で上記①②③の実験のさらなる改善を行う。その後の予定として9月以降、およそ2m立方体形状の大型【3次元】土槽を用いた浄化実験に着手する。これまでの小型土槽・大型土槽は奥行きが5cmのものであり、実質的に2次元流れ場であった。そのため、奥行き方法の界面活性剤のロス・みずみち流れがどのようになるのかはこれまで測定されてこなかった。2m立方体形状の大型3次元土槽を用いた浄化実験によりこれらを把握したいと考えるのであるが問題は観察方法である。これまでの小型土槽・大型土槽は前面がすべて透明アクリルパネルで浄化の進行が常時観察可能であった。しかし、大型3次元土槽を用いた実験では、残念ながら奥行き方向を常時可視化することは不可能である。センサー類を入れることについては、検量などの副次的なノウハウが必要となることが予想されるため今年度は考えず、極めて原始的ではあるが複数回の解体を行うことで内部の様子を撮影しサンプリング~分析により実験を記録することを考えている。おそらく浄化完了までに20日ほどかかると予想される。浄化開始から5日後に解体作業を行った後の実験は、また初めから浄化を開始して10日後に、その次はまた初めから浄化を行って15日後に解体する。地表面から10cmピッチで地盤を剥離的に掘削し、各深度の汚染油の残存の様子を上部より撮影するとともに、サンプリング土壌の残留油分を定量的に測定する。これを浄化完了までを数回に分けて実施することで、3次元的な汚染油の空間分布を把握する。このようにして大型3次元土槽を用いた浄化実験を①②③それぞれについて行い、得られた結果に対しこの基盤研究(B)の課題の総括的な考察を行いたいと計画している。
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