研究課題/領域番号 |
15H04041
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
田中 政典 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, 専門研究員 (20371768)
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研究分担者 |
渡部 要一 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, その他 (00371758)
川口 貴之 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20310964)
亀井 健史 宮崎大学, 工学部, 教授 (30177597)
大河原 正文 岩手大学, 理工学部, 准教授 (80223741)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 粘土鉱物 / セメント改良土 / 化学的固結 / 土の凍結 / 土の物理的性質 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究成果を受け、土が生来有している要素の抽出と体系化を行って、それらの要素が土の工学的特性に及ぼす影響の分析と土ゲノム概念を構築するための研究を行った. (1)土の工学的特性を支配する土ゲノムの検討について、土粒子、固結物質や珪藻微化石などの土ゲノムの基本要素を提案し、珪藻微化石と塑性図の関係、液性限界と塩分濃度との関係を明らかにした.また、東京湾粘土のX線回折試験結果から深度方向に粘土鉱物の結晶度が高くなっていることを明らかにした.この成果を基に、火山灰質粘性土(関東ローム)を海水中に10ヶ月間水浸し、関東ロームのような非晶質粘土が粘土鉱物を持つ土に変化することを透過型電子顕微鏡によって確認した.本結果から、火山灰質粘性土が海洋環境下で粘土鉱物に変化することを証明できた. (2)セメント改良土の強度発現メカニズムの検討については、海水環境下におけるセメント処理土の強度発現機構を明らかにするため、マグネシウム(Mg)に着目した実験を行った.この結果、Mg含有量が増加することに従ってセメント改良土の強度発現を阻害することがわかった. (3)土壌環境の分析と土ゲノムの検討について、化学的固結作用が土の工学的特性に及ぼす影響を調べるため、メキシコ粘土を対象としてセメンテーションに関する実験を行い、化学的固結を受けたメキシコ粘土は、細粒分が少なくても比表面積や液性限界(土の保水性)がベントナイトよりも大きくなることを示した.また、同じ土であっても凍結させると液性限界が小さくなることを示した.この傾向はどの土もあてはまることを明らかにした. (4)微少なひずみ領域における土のせん断強さについては、ナノインデンター試験から得られるせん断強さは、土被りの影響を受けないテルツァギの支持力公式を適用できることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)海水環境下で非晶質の火山灰質粘性土が粘土鉱物を持つ土に変化することを証明できた.この室内実験での証明は、我が国において初めての成果であると思われる.従来から粘土鉱物を作製する実験は行われていたが、高温、高圧下における条件の下での成果であった.しかしながら、本研究では22゜Cの海水環境下で火山灰質粘性土を10ヶ月間浸すだけで粘土鉱物を作製することが出来た.このことは、火山灰質粘性土の持つシリカやアルミナが海水環境下で一度分解し、その後、再結晶化して粘土構造を持つ土に変化したことを意味している.海水の持つイオンが火山灰質粘性土にどのように作用したのか明らかにすれば海成粘性土の工学的特性の解明や経済的な地盤改良等の提案に大きく役立つものと考えられる. (2)セメント処理土の母材には海成粘性土を使用することが多い.本研究ではマグネシウム(Mg)含有量がセメント処理土の強度発現を阻害することを示した.海成粘性土の粘土鉱物には、クロライトが多く含まれている.クロライトはシリカ、アルミナシートにMgシートが付随したものである.また、母材に含まれる海水とその粘土層間にはMgイオンが存在している.セメント処理土の強度発現において、固相部(クロライト含有量)と液相部(海水含有量、Mgイオン交換容量)がどのように作用しているのか明らかにすることによって、セメント処理土の強度発現機構の解明は大きく進展する. (3)化学的固結を受けたメキシコ粘土(主要粘土鉱物はスメクタイト)は、細粒分が少なくても比表面積や液性限界(土の保水性)がベントナイトよりも大きくなっており、化学的固結を受けた土は、かく乱を受けてもその構造が完全に消えることがない.このことから、人工的にある土構造を作ってしまえば、その後の自然現象やかく乱の影響を受けてもその土構造を生かした設計思想の提案が可能となる.
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今後の研究の推進方策 |
土が生来持っている鉱物組成などの要素(生まれ)と土が生成されてから隆起や沈降などの影響を受け、後天的に獲得した要素(育ち)を分離・抽出して、現在の土を総合的に説明できる概念を構築するため、以下の研究を推進する. (1)土ゲノム概念がどのような土にでも適用できることを確認するため、氷河堆積物粘土であるオンソイ粘土(ノルウェー)を対象として、その土が生来持っている工学的特性をX線回折試験をはじめとした地球物理学的試験および力学試験を行う.また、日本の東京湾粘土および佐賀有明粘土とオンソイ粘土の工学的特性とを比較して土ゲノム要素の抽出と同定を行う. (2)自然由来の固結土と人工的な固結土との工学的特性の比較を行う.自然由来の固結土であるルイズビル粘土(カナダ)とメキシコ粘土ならびにセメント等を付加して作製した人工的な固結土の物理化学的性質と微視構造観察の観察を行う. (3)酸化鉄の生成が土の工学的特性に及ぼす影響について検討を行う.火山灰質粘性土が海成粘性土に変化する過程において、鉄分含有量は著しく増加する.このため、鉄分が土の固結に及ぼすメカニズムの検討を行う. (4)各種せん断強さの適用性の検討を行う.ナノインデンター試験において、押し込み速度を変化させ、せん断強さに及ぼす排水条件、非排水条件の境界を明らかにする.本研究で実施したせん断試験結果比較して各種せん断試験の適用性をとりまとめ多様な土に対する最適なせん断試験を提案する. (5)土ゲノム概念のとりまとめを行う.研究成果のとりまとめと土の工学的特性を支配している土ゲノム概念を創出する.土ゲノム概念がグローバルな観点から地盤物性の統一的解釈基準の策定に寄与できることおよび工学的有用性について検証する.
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