研究課題
前年度に構築した段波発生装置に新たに平面造波装置を加え、津波・高潮・高波重合場の伝播・氾濫実験を行った。氾濫実験では、既有のアタッチメント等を用いて平面水槽内の斜面勾配を変化させて氾濫域を再現し、さらに海岸堤防や道路や鉄道による二線堤などを加えたモデル地形を製作した。これらの構造物や微地形を含む氾濫域における水理特性を定量的に捉え、実験結果を通じて構造物や微地形による減災効果を分析するとともに、数値モデルの検証データとしても活用した。また断面二次元水槽における基礎実験も実施し、段波成分と短周期波浪成分が重合した場合における砕波限界や、それにともなう衝撃波圧の変化を詳細に計測・分析した。また2016年にはスーパー台風Merantiによりフィリピンのバタン島で氾濫災害が起こり、現地調査結果からリーフ上における長周期変動波による増幅を一因とする痕跡が認められた。また同様の災害が2015年のサイクロンPamによるバヌアツにおける災害においても見られたため、これらの再現を可能な数値モデルを構築し、現地条件に適用した。その結果、バヌアツのTakara地区のリーフ上では平面二次元的な波浪の伝播、変形、反射、重合により、水位上昇量が局所的かつ一時的に増幅する傾向を再現することができた。最後に分析する氾濫特性は、被害指標の構築とそれに基づく被害評価に用いることを念頭に置いており、例えば浸水深、流速、浸水までのリードタイムなどの、被害評価に必要であると考えられる項目を列挙し、それらの特性を定量的に抽出するモデルを構築した。
1: 当初の計画以上に進展している
研究成果の概要にも示した様に、計画していた段波造波装置と平面造波装置を用いた基礎実験を実施した。また断面二次元水槽における詳細な実験とその分析、さらに、スーパー台風Merantiによる災害調査や、そのメカニズム再現のための数値モデルの構築と適用、検証など、当初の計画を発展させた研究成果を挙げることできた。平面造波装置については既存のものでは、造波装置の配置に不都合が生じることもあったため、小型の造波装置を新たに構築し、実験に用いることで所定の研究成果を上げることができた。以上より、当初計画よりも良好な進捗状況にあると判断される。
前年度までの研究において、津波と波が重合する条件における実験装置の開発と、その装置による基礎実験、非線形分散波方程式に解析手法の構築を行った。本年度はモデルの改良を行うとともに広領域計算へのモデルの拡張も勘案し、短周期波成分については位相平均型の波浪モデルを用いるハイブリッド型の数値モデルの構築も試みる。次に数値モデルにより抽出した氾濫水理特性に基づき、実際の被害を評価し複数の減災対策の効果を比較・検証するための指標を構築する。ここでは、減災対策案の相対的な優劣比較を行うことを主目的とするため、必ずしも詳細な被害額の精度を追及する必要はないと考えられるが、可能な限り現実に即した客観的でかつ汎用性の高い被害指標の構築を目指す。本研究では、被害を大きく人的被害および物的被害に分け、人的被害については避難計画や発災時時間帯、気候条件等のいくつかのシナリオを考え、これらの影響を考慮した避難シミュレーションに基づき氾濫域における避難可能率を算定する。避難シミュレーションは汎用性、一般性を念頭に置き、実情に合わせながら可能な限り単純な条件設定を用いる。次に物的被害について、中央防災会議等での現状の被害想定では最大浸水深のみに基づき評価されることが多いが、実際の被害程度には浸水深だけでは説明できないことが指摘されている。本研究では近年津波による被害評価にも用いられるようになった被害関数の概念を導入し、氾濫域の各地点における浸水深や流速の時間分布から建造物の被災率を推定し、土地利用分布なども勘案して氾濫域全域での家屋被害を推定する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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