研究課題/領域番号 |
15H04047
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鼎 信次郎 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (20313108)
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研究分担者 |
遠藤 崇浩 大阪府立大学, 現代システム科学域, 准教授 (50414032)
長野 宇規 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (70462207)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 世界水危機 / 文理融合 / ソフトパス / リモートセンシング / 地下水管理 |
研究実績の概要 |
1)水逼迫緩和策としてのソフト・パス成立要件の調査 水取引、地下水税、地下水の許可証取引などが実施されている地域であるアメリカ合衆国、オーストラリア、チリ、タイといった国々を対象に、それらソフト・パスの内容を整理し、成立に関わる自然条件やインフラ条件、社会科学的条件を明らかにした。そして、世界水需給アセスメントへ組み込むためのGIS データベースという形でまとめた。ここではi) 各国や地域が抱える水問題の背景、 ii) 水文・気候・地形等の条件、iii) 灌漑地の分布や水インフラの整備状況、iv) 様々な一般的な社会経済データを出発点に、水取引に関してはv) 取引の実施期間や季節、vi) 取引の主体とシステム、vii) 取引の空間スケール、viii) 取引による効果、地下水の有効利用についてはix) 課税対象、x) 税収の使い道、xi) 監視および違反者に対する罰則システムといった諸項目に注目することで、世界水需給アセスメントと結合することを目的とした成立要因の分析と整理を行った。
2)高次地理情報データの整備 灌漑地や水インフラに関わる情報について、詳細な諸元と経年動態の把握を進め、新規性や独自性を高めるべきと考えた。研究分担者は過去数年、「世界灌漑農業アトラス」という名で、MODIS 画像を用いた植生指数、地表面水指数等の全球陸面時系列データセット(250m 解像度、8 日間隔)の作成に取り組んできた。水取引実施地域であるオーストラリアをはじめ、トルコ、タイ、ベトナム、カンボジア、インドなど15 カ国の灌漑地において、作付面積、作付、農業災害情報を構築してきた実績を持つ。このアトラスを継続発展させ、特に潜在的な水危機地域を対象に、LANDSAT8 など、より高解像度の衛星画像解析も援用して、2000 年来15 年間にわたる灌漑面積、作付け、洪水・渇水被害情報の構築行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度は、世界水需給アセスメントへの「ソフト・パス(水取引・地下水の有効利用)」の組み込みを行うための水逼迫緩和策としてのソフト・パス成立要件の調査や灌漑と水インフラに関わる高次地理情報データの整備に注力し、順調に研究を進めた。具体的には、地下水汚染対策に資する法規定の分析を行ったほか、国際連合食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations)の水法データベース(WaterLex)の情報を手がかりに、世界各国の水取引ならびに地下水の有効利用に関する法律を収集した 。また、高次地理データの整備に関しては、MODIS画像を用いた稲作のフェノロジー解析により、洪水による冠水と収穫のタイミングの比較による冠水被害地域特定法、Landsat画像を併用した教師無し分類による稲の収穫面積の年々変動評価法を確立した。このように、それぞれの要素については、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)水逼迫緩和策としてのソフト・パス成立要件の調査:水逼迫緩和に向けたソフト・パスとして、特に水利転用と地下水管理に注目する。米国および日本においてソフト・パス導入に成果を上げている政策やガバナンス体制の具体事例に注目し、文献調査および実地調査する。そして、世界あるいは広域水需給アセスメントと結合することを目的として、制度の構造と成立要因を法的・政治的・経済的観点から解明する。さらに、世界各国における各制度の適用可能性を明らかにしていく。 2)灌漑と水インフラに関わる高次地理情報データの整備:「灌漑と水インフラの高次地理情報」構築のため、灌漑地の干ばつ時の作物状態の高時間解像度モニタリング技術開発に取り組む。これらにより、地域毎に水源および水利権制度と干ばつ対応力の差異を精査することが可能になる。さらに、全球ダム・堰データGRanDや、あるいは灌漑水路網などの地域的な地理情報をGIS上でオーバーレイすることによって、ソフト・パス成立要件のための灌漑と水インフラの高次地理情報を整備する。 3)世界水需給アセスメントへのソフト・パスの組み込み:水逼迫緩和ソフト・パスの代表である水取引や地下水の有効利用政策が十分成立し得る地域、水インフラ整備次第では成立可能な地域、水利権や土地制度に関わる部分さえ社会的に変更すれば成立する可能性がある地域などを順次抽出する。 4)ソフト・パスを考慮した将来の水逼迫緩和ポテンシャルの推計:上記の3)と過去から将来(たとえば2050年頃まで)にわたる水需給シミュレーションを重ね合わせ、さらに項目1)による「ソフト・パスの効果」についての情報を用いることによって、それぞれの地域において将来想定される水逼迫量を、どの程度までならソフト・パスによって緩和可能であるか、検討を開始する。
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