研究課題/領域番号 |
15H04070
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五十子 幸樹 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (20521983)
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研究分担者 |
堀 則男 東北工業大学, 工学部, 教授 (60292249)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ダイナミック・マス / 長周期地震動 / 同調粘性マスダンパー / 多目的遺伝的アルゴリズム / リアルタイム・ハイブリッドシミュレーション |
研究実績の概要 |
1.長周期地震動対策としての同調粘性マスダンパー制振システムの高度実用化に関しては,現在建設中の赤坂一丁目プロジェクトにおいて同制振システムの支持部材剛性を実測し,貴重なデータを得た.また,このデータを参考に,支持部材剛性を数値的にシミュレーションすることが可能なリアルタイム・ハイブリッドシミュレーション(RTHS)実験環境を構築し,支持部材剛性を±30%変動させる実験を実大ダンパーを用いて実施した.これら実測と実験により得られた成果は,H29年度日本建築学会大会学術講演会梗概集に投稿済みである.同調粘性マスダンパー制振システム最適設計法の定点理論によらない一般化については,制御対象モードに由来する二つのモードの減衰を最大化する問題に置き換えて数値最適化を行うことで実現できることを明らかにした.以上の他,本研究課題のダイナミック・マスを用いた制御に関連して,2編の英文論文を国際Journalに投稿し掲載済みである. 2.変位感応型性能可変オイルダンパーの開発と実用化については,縮小試験体を用いたRTHS実験環境を研究協力者の免制震ディバイス小山技術センターと米国メリーランド大学の施設において構築した.設計法については,設計上の必要条件を制約条件として網羅した免震層変位・床応答加速度同時最小化問題を定式化し,多目的遺伝的アルゴリズムを用いてトレードオフ解を導出する方法を確立した.設計法に関する研究成果の一部はH29年度日本建築学会大会学術講演会梗概集に投稿済みである他,性能可変型ダンパーを用いた免震構造物のRTHS実験に関してStructural Control and Health Monitoringに英文論文一編を投稿し,Online Early Viewが掲載済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.長周期地震動対策としての同調粘性マスダンパー制振システムの高度実用化に関しては,現在建設中の赤坂一丁目プロジェクトにおいて同制振システムの支持部材剛性を実測し,貴重なデータを得た.支持部材を構成する要素の内,鉄骨ブレースについては,設計時解析と現場実測の差が2割程度であり,ゴム部材については特に歪レベルが小さい場合に設計想定の2倍程度の剛性になっていることが明らかになった.このデータを参考に,支持部材剛性を数値的にシミュレーションすることが可能なリアルタイム・ハイブリッドシミュレーション(RTHS)実験環境を構築し,支持部材剛性を±30%変動させる実験を実大ダンパーを用いて実施した.実験の結果,支持部材の剛性が高くなる方向へのダンパー特性変動に対しては,同調粘性マスダンパーの性能は安定しており,設計のばらつき想定以内の性能を発揮することを確認した. 同調粘性マスダンパー制振システム最適設計法の定点理論によらない一般化については,制御対象モードに由来する二つのモードの減衰を最大化する問題に置き換えて数値最適化を行うことで実現できることを明らかにした. 2.変位感応型性能可変オイルダンパーの開発と実用化については,縮小試験体を用いたRTHS実験環境を研究協力者の免制震ディバイス小山技術センターと米国メリーランド大学の施設において構築することに成功しているが,何れも変位検知して性能可変する変形領域までの実験には至っていない.これは変位を検知する外部小型シリンダ部分への空気の混入が原因と考えている.設計法については,設計上の必要条件を制約条件として網羅した免震層変位・床応答加速度同時最小化問題を定式化し,多目的遺伝的アルゴリズムを用いてトレードオフ解を導出する方法を確立した.
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今後の研究の推進方策 |
1.長周期地震動対策としての同調粘性マスダンパー制振システムの高度実用化に関しては,RTHS実験における構造物側数値計算モデルが一自由度系に限られているので,実験時の高次モードの安定性について検討を加え,多自由度系の実験手法を確立する.実建物の実測データについては,詳細な分析を進めて,可能な限り設計情報として公開を目指す. 同調粘性マスダンパーの非比例系を含めた設計一般理論については,最終年度のH29年度中にEarthquake Engineering & Structural Dynamicsに投稿する予定である. 2.変位感応型性能可変オイルダンパーの開発と実用化において,実物大ダンパーの設計作業を進めてきたが,試験体製作費を試算したところ,計画当初の想定を大きく超えて高額な見積額となっていることから,代替案として低コストな機構を検討している.この代替案は,Wangらが提案するHydraulic Inerterを改良したもので,作動油のバイパス流路に油圧で駆動される歯車モータとフライホイールを取り付けるものである.この装置にはオイルダンパーとして機能するサブピストンが設けられ,メインシリンダーに二次的なバイパス流路を設けることでダンパー変位を検知して質量効果を可変とする機構を提案する.H29年度は,この新しい提案について解析的な検討と,600kN程度の制御力を発揮出来る試験体を用いた実験的検討を進める.
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