研究課題/領域番号 |
15H04073
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桑村 仁 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20234635)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 耐水構造 / 氾濫流 / 津波 / 洪水 / 高潮 |
研究実績の概要 |
河川自然流を用いて円筒体の水理実験を行った。実験装置は円筒体構造模型と計測センサーを組み込んだパッケージ型で,河川床に設置できるものである。データの計測・収録システムは,コントローラー(増幅器・演算装置内臓),インターフェイス(AD変換期・同調器内臓),ノートパソコン(モニター・収録ソフト内臓)で構成される。実験場所は栃木県那珂川水系の標高500メートルにある沢の水平な直線部分とした。これらの実験装置,実験条件は,昨年度実施した直方体模型の水理実験と同じである。 試験体は流れとの相関関係を調べるために,円筒の直径を3段階に変化させた。これにより,構造体の幅の流れの深さに対する比(アスペクト比)の影響,および水路の幅に対する比(閉塞率)の影響を検討できるようにした。 流れが構造模型を越流しない条件で,構造物を水平方向に押し流そうとする抗力と持ち上げようとする揚圧力を調べたところ,次の結果が得られた。抗力係数はアスペクト比と閉塞率の影響により0.6~1.3の範囲に変動し,フルード数が1.0の限界流あたりで最大値を示し,フルード数の低い常流とフルード数の高い射流では抗力係数がやや低くなる傾向が見られた。一方,揚圧力係数はフルード数のみで決まり,フルード数に対して明瞭な低下傾向を示し,1本の曲線で近似できることが判明した。これにより,全陽圧力は流れが静止したときの浮力の75%となることが導かれた。 円筒状の構造体は,直方体に比べて抗力を低減できるので水害避難ビルとして有効であるが,沿岸工業地域に設置される石油や液化天然ガスの貯蔵タンクとしても用いられるので,これらの構造物の水害対策として有用な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
河川自然流を用いた水理実験は,水の使用料金が掛からないという大きなメリットがある反面,野外実験特有の制約がある。そのもっとも大きな制約要因は天候であり,また季節的な水量の不安定である。幸い,今年度の野外実験は,これらの自然条件が比較的良好であり,屋内実験室で人工水路を用いた水理実験よりも,かなり広い範囲での流況で実験が可能となった。特に,フルード数が0.5~1.8という常流,限界流,射流にまたがる広い範囲でデータが取れたのは幸運であった。
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今後の研究の推進方策 |
3年目(29年度)は,ピロティを有する構造体の水理実験を行う。実験装置と実験方法は今までと同じである。構造物の下層部に吹き放ち空間(いわゆるピロティ)があると,そこを流れが通過するので,抗力が低減され,耐水構造上,有利とされているが,その有効性は実証されていない。ピロティ上部の壁体が流れの表層流に浸水した場合の抗力係数が重要であるので,特に,それに注目して実験を行う計画である。
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