研究課題/領域番号 |
15H04087
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
岩田 利枝 東海大学, 工学部, 教授 (80270627)
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研究分担者 |
中村 芳樹 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (30189071)
望月 悦子 千葉工業大学, 創造工学部, 教授 (80458629)
原 直也 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (00330176)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 建築環境・設備 / 光源技術 / 人間生活環境 / グレア / 輝度画像 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続き、1.競技者の視線移動の抽出 2.スポーツ照明の現場調査・測定、3.主観評価の実験室実験を行った。 1についてはバドミントン競技者を対象に、初心者と経験者別に視線移動と瞳孔径変化を追跡し、照明の直視頻度は1~15回/分で、初心者が経験者より直視頻度が高くなり、瞳孔径の変動係数は直視頻度と正の相関があることを示した。 2については2-①高輝度測定のための輝度測定システム構築、2-②体育館の光環境実態把握と被験者評価、2-③グレア評価推定に分けて行った。①では、現在一般に用いられている数種類の輝度画像取得システムの画素数、画角、画像解像度、MTF特性の関係を明らかにし、ヒトの目の解像度を考慮し、目的(投光器評価と視野評価)に適したシステムの選択を行った。②では昨年の体育館8件に今年度は3件(LED 1件、HID 2件)追加し、光環境実測と被験者実験を行い、投光器からのグレアは仰角が大きい方が高くなり、光源輝度×光源の大きさとの正の相関が高いことを示した。③では、不快グレアに及ぼす時間履歴の影響を物理的なパラメータとして抽出するため、さまざまなサイズ・輝度・対比条件でのグレアを、提示時間を0.1秒から16秒の範囲で変化させ、グレアの時間履歴の効果を定量化し、時間軸のウェーブレット変換を利用することで、その効果を定量化した。 3については、まず視線の焦点位置とグレア源の位置をパラメータとする模型評価実験を行ったが、焦点距離が1m程度の模型実験では有意差は確認されなかった。さらに、背景輝度6~60cd/m2で、注視点までの距離および光源までの距離を変化させ、背景の2000倍の輝度の光源を0.1、または1.0s点灯した時の、不快グレア評価を行った。注視距離が光源距離に近いほど、光源の点灯時間が長いほど、また、背景輝度が低いほど不快でまぶしいという評価結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最も障害となったのはLED投光器が非常に小さい高輝度部分を含んでおり、現在使われている画像による輝度分布測定システムでは精度良く測定することが困難だという問題である。これは照明学会でも「『視環境評価のための画像測光に関する学会指針作成』に向けた研究調査委員会」(委員長・岩田利枝)が設置され、議論が続いている。本研究では測定精度の向上を追求するのは現実的ではないと判断し、MTF特性を用いて測定システムの性能を示した上で、測定値を示すことにした。また、投光器と視野全体の輝度測定では必要画角、解像度が異なることから、異なるシステムで測定することにした。そのため視野内輝度分布については画角を広げて再測定を行うなどの影響があったが、大きな遅れとはならなかった。 実測・実験を行う体育館の現場確保を懸念していたが、体育館11件(LED 6件、HID 5件)の協力を得ることができた。188名の被験者データが得られ、一部未解析のデータが残っているが、これは予定通りに進捗している。 実環境に設置されたLED照明器具のグレア推定には、光源輝度、背景輝度、光源サイズを測定された輝度画像から推定することが必要となるが、空間フィルタリングを利用したコントラスト・プロファイル法を改良し、グレア・プロファイルを作成するアルゴリズムを開発できた。また時間履歴についても、時間軸でのウェーブレット変換を利用することで定量化し、その効果を推定するモデルを開発した。今後は、その整合性をチェックする予定である。 実験室及び装置の作製に時間がとられていた視線の動きがグレア感に与える影響に関する実験室実験は、視線の動きの影響はまだ把握できていないが、注視距離と光源距離の差異がグレア感に及ぼす影響は把握することができ、同実験装置を用いることで今後、視線の動きの影響を把握する予定である。 全体として順調な進捗状況と言える。
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今後の研究の推進方策 |
以下のように推進する予定である。 競技者の視線移動抽出については、昨年度の結果では、経験者と未経験者では光源が目に入る回数などに差が見られたので、今年度はサンプル数を増やし、定量的な解析を行う。 高輝度測定のための輝度測定システムの確立と測定輝度画像検証システムの確立については必要精度が確保されていることを確認するためのプロトコルを確定する。また、これまでに得た16件(従来照明5件とLED照明11件)の体育館でデータについて、被験者の主観評価と視野内輝度分布との対応を明らかにするための詳細な解析を進める。昨年度は光源輝度などを説明変数として重回帰分析でグレア評価の予測を試みているが、今後はCA図(コントラスト・プロファイルによって得られる図表)を利用して、既往のグレア評価モデルとの対応を測り、さらにこれに、得られた時間履歴モデルを展開していく。 主観評価の実験室実験では、先に行った光源距離と注視距離がグレア感に与える影響の設計に反映するための定量化と、実験の遅れによりまだ検討できていない視線の動きがグレア感に与える影響を把握するための被験者実験を行い、従来のグレア評価にないパラメータとして検討する。 上記の各結果を、学会発表、論文投稿によって、成果を公表する。また、最終年度なので、研究全体の目的に沿った成果として統合を図る。①高輝度の輝度分布測定方法の提案と実態把握、②実用的グレア指標の開発、③新しいグレアパラメータの導入、グレア推定システムの構築を行い、学会発表、論文作成・投稿によって成果を発信する。特に、②の実用的グレア指標は実務分野へ発信し、①と③は国際照明委員会(CIE)の技術委員会(TC)などを通して国際的発信を行う。
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