前年度までに行った海外調査と国内調査により得た資料などから、研究成果の執筆を行った。また、研究成果の執筆にともない生じた確認すべき点について、資料購入や補足的な文献調査を行って研究成果の公表を行った。とくに、郊外住宅地開発地における開発以前の土地状況とその後の経過について分析を行った。その成果の概要は次である。 当時、朝鮮半島の最大都市だった京城では多くの郊外住宅地開発が起こり、日本人の定住化が進んだ。そこには外庭式の住宅地が広がったわけであるが、その開発用地の土地取得においては在地社会からの譲渡があり、在地社会を構成する朝鮮人地主/管理組織の存在があった。郊外住宅地開発者としての日本人と在地社会の地主である朝鮮人の間に譲渡にかかる交渉と混乱が生じていて、とくに在地社会には郊外住宅地といった近代的な空間への変容に対し土地譲渡を行う集団と、これに反対する集団の姿が浮かび上がった。また、在地社会においても郊外住宅地開発が行われるような場所であることから人口の転入圧力が拡がっていたため、貸家建設や貸地契約が進んでいたと考えられる。 また、植民地期末期になると建築資材統制も始まり、貸家家賃の統制もあって、朝鮮でも貸家組合関連法が整備され、朝鮮半島各地で多くの貸家組合が設立された。その活動については不明な点も多いが、現在、韓国で行われている研究成果も参照しながら、貸家建設の都市的な状況について包括的な把握をした。同時に当時の統計資料から貸家の賃貸価格と面積、住宅構造などについての数量的分析を進め、都市別の状況的差異を把握できた。今後はこの都市別の貸家状況の詳細分析が課題としてある。
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