研究課題/領域番号 |
15H04115
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
巽 一厳 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (00372532)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電子磁気円2色性 / 電子磁気直線2色性 / 透過電子顕微鏡 / 電子線エネルギー損失分光 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、わずか10nmの結晶サイズで足る、物質中のスピン状態の新しい元素選択的計測法を構築し、スピントロニクス材料のナノスピンイメージングに応用することである。これは、X線分光で発展してきた磁気円偏光および直線偏光2色性を、これまでの申請者の経験を踏まえ、走査透過電子顕微鏡分析で実現するものである。従来の固定観念を打破する高効率な新規計測スキームにより、従来の試料制約を大きく緩和する。本研究は「原理の実証」から出発し、遷移金属ナノ多層膜、スイッチングデバイスを目される反強磁性酸化物薄膜、永久磁石のピン止め設計への応用までを視野に入れる。提唱する分析法が確立されれば、これは強磁性体のみならず反強磁性体の魅力的で広大なデバイス機能の根源であるスピン状態を探る究極のナノ磁性計測法となる。 本研究では,走査透過電子顕微鏡に付随する電子線エネルギー損失分光における磁気シグナルとして円偏向2色性(EMCD)と直線偏向2色性(EMLD)を顕在化させる. 現在までに,遷移金属酸化物において,EMCD信号割合が10%程度となる比較的大きな信号強度を通常のイントリンシック法で測定できるようになった.しかし,特型絞りを用いた計測は成功できていない.逆空間上に絞りを精確に敷設できていないためと考えている.また,特型絞りを挿入するホルダの構造上の問題で,エネルギー分解能が悪化することが判明した.EMCD信号強度から材料物性情報を得る試みとして,Coの結晶磁気異方性をEMCD信号強度で観測した.約25%の強度変化が容易・難磁化方向の計測で見られ,これはマクロな磁化測定から予想される違いと対応するものであった. 一方,EMLDに関しては,遷移金属酸化物において,有意な信号強度を得た.現在,電子線の入射方向を変えて,信号のスペクトル形状がどのように変化するか実験的に捉えようとする途上である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子磁気円2色性信号獲得においては,試料作製技術を検討し,良好な結晶性をもつ厚み約50nm以下の薄片を得ることで,特に酸化物磁性体において比較的大きな信号強度を得るようになった.金属磁性体においても,試料状態・測定の幾何学パラメタをよく固定することで,円2色性信号強度からスピンモーメントの光軸成分強度を相対的に評価できた.これらの進展はあったが,2015年度に準備した特型絞り挿入機構においては,通常のイントリンシック法においても円2色性信号強度が得られていない.この点においては,予想より進捗が遅れていると言える. 電子磁気直線2色性信号獲得においては,再現性のある信号が,強度割合は極めて低いものの,比較的長時間の測定を安定した状況で実施でき,確認された.しかし,年度半ばに分光器に故障が生じ,結晶方位を変えた信号について知見が十分に得られていない.現在,ハードウェアの不具合が解消され,継続的に信号を蓄積する準備を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
研究協力者から理論面,連携研究者から計測面の支援を得ながら,学内の共同顕微鏡施設を拠点として精力的に推進する.EMCD/EMLDについて以下のようなロードマップを掲げる. <堅牢なEMCD測定スキームの構築> 1. 走査モードでの計測:高い再現性のEMCD計測の実現,2.理論計算を援用しての物性情報の獲得,3.原子サイト選択的なEMCD測定,4.特型絞りによるEMCD測定のための手法改善 特型絞りを用いた計測は,逆空間上に絞りを精確に敷設できていないためであり,この改善のためにはTEM筺体への頻繁なアクセスが問題となるため,後回しする.エネルギー分解能低下を防ぐための絞り挿入機構の再設計を早い段階で検討する.比較的明瞭な信号強度が得られる遷移金属酸化物系で,サイト選択的なEMCD計測を優先して行う. <EMLD計測の実証と高空間分解能化> 1. 原理の実証 2. 理論計算予測との整合性を検証 3. 信号強度増大と高空間分解能化 4. 反強磁性・強磁性遷移金属酸化物コンポジットでの顕微計測のデモンストレーション。 電子線の入射方向を変えて,信号のスペクトル形状がどのように変化するか実験的に捉える.これに対応した理論計算を行い,実験結果を裏付ける.この段階を経たうえで,信号強度を増大させる測定条件を検討する.
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