本研究課題は,熱エネルギーの空間的・時間的ミスマッチを解消する均質性・大規模合成に優れたガラスベースの熱マネージメント材料の創出を目指すものである.大量生産性に優れ,材料的自由度の高いガラス物質中に,潜熱蓄熱性を有する酸化物結晶を包含させたガラス―結晶複合材料を作製することで,効率的な環境調和型熱マネージメント手法を開拓することを目的とする.以下に得られた主な成果を記す.
1.高い蓄熱性能を有するVO2結晶の分散マトリックスとなる新規ガラス材料を開発した:V2O5高含有ガラスにおいて,低融点で合成可能で,かつVO2結晶を変質することなく安定的に包含可能なガラスの作製に成功した.特に,本研究で見出したV2O5-BaO-TeO2系ガラスは,ガラス転移温度が280℃以下であり,結晶化も示さないことから,マトリックスとして好適である. 2.ガラスベース材料において潜熱蓄熱による温度保持能力を実証した:マトリックスガラスにVO2結晶を分散させた複合材料から,構造相転移による明瞭な吸熱反応を確認した.また熱分析による潜熱蓄熱量の定量評価を実施し,分散VO2結晶量に相当する潜熱蓄熱性能を有することを明らかにした.さらに,VO2のMott相転移に対応する温度域において,顕著な温度保持性能を示した. 3.マトリックスガラスの耐環境性の向上に成功した:本研究で作製した各種の分散マトリックスガラスから作製した複合材料の耐水性試験を実施し,V2O5-BaO-TeO2系において高い耐水性能を有することを見出した.またVO2結晶を微粉化することで,複合材料の作製プロセス中に発生するクラックの抑制に効果があることも確認した.
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