研究課題/領域番号 |
15H04120
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中島 章 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00302795)
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研究分担者 |
磯部 敏宏 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (20518287)
松下 祥子 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (50342853)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 撥水 / 酸化物 / 有機物 |
研究実績の概要 |
Gd2O3, SiO2 薄膜とGd2O3焼結体を作製し、濡れ性を検討した。金属アルコキシドからコート液を作製し、パイレックスガラス基板上にスピンコートした後に、500°Cで焼成することにより、薄膜試料を作製した。接触角の経時的変化を測定し、ATR法による水の状態分析,XPSによる炭素濃度分析も行った。薄膜試料は表面粗さ1 nm程度の均質な膜であった。SiO2薄膜は作製直後では接触角0°、暗所保持1ヵ月後でも31°であったがGd2O3薄膜は同様の期間で5°から67°まで上昇し、高い疎水化速度を示した。ATR法やXPSによる分析から、Gd2O3薄膜はSiO2 薄膜よりも炭素に由来する物質を吸着しやすく、疎水的になりやすいことが示唆された。焼結体は、Gd2O3粉末を一軸加圧成型した後、表面に種々の粗さを付与し、合成空気雰囲気下にて1600°Cで焼成することにより作製した。レーザー顕微鏡で表面粗さを測定し、粗さが濡れ性に与える影響等を議論した。得られたGd2O3焼結体は単斜晶単相であり、一定期間の暗所保持で接触角が80°程度まで上昇し、表面粗さの増加と共に接触角が90°以上に増大した。焼結体の疎水化速度には、電気炉からサンプルを取り出す温度や、その後の曝露雰囲気等も関わっていることが推測された。 次にTi板をアルカリと酸で処理することにより表面にナノレベルの粗さを付与した。焼結体からの知見を基にこの試料を合成空気下で焼成したところ、有機原料を使うことなく超撥水表面が得られた。この表面は光照射により、超撥水から超親水への状態が変化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、合成空気中で焼成することにより得られる撥水性酸化物セラミックスに関する様々な表面分析から、このプロセスでの酸化物表面の撥水性発現機構を明らかにするとともに、このプロセスが適用可能な温度や物質の範囲を見極めることを主眼とした。 合成空気による焼成により様々な酸化物が撥水化したが、その程度は Gd2O3が最も高かった。疎水化の速度は焼成後と取り出し温度、暗所保持雰囲気、試料の表面粗さに依存した。オゾン暴露や熱処理後の撥水性の回復や、表面組成と撥水性の比較から、撥水性は焼成後の雰囲気中の炭素分の吸着に依ることが明らかになった。 本年度の結果は、原子間の結合を切り、大きな物質移動を伴う焼結プロセスにおいて、雰囲気に水分が著しく少ない環境下で形成される表面状態は、通常の大気雰囲気とは異なる可能性を強く示唆している。水酸基の減少した構造ができていることが推察されるが、これを明らかにするには詳細な表面分析や計算科学からの検討を必要とし、次年度以降の課題である。同様の撥水化は、絶乾に近い環境で構造の組み換えが起これば起こり得ると考えられ、フラグメントから膜ができるドライププロセスでの撥水表面の発現は同様の現象である可能性がある。また、焼結だけでなく、分解や脱水、相変態、結晶化等の物質移動過程が絶乾に近い環境で起こっても、その構造が室温にまで維持される場合には、撥水化する可能性がある。そのことをTi板による超撥水の実現はほぼ証明したものと思われる。この手法により多くの酸化物を、有機物を用いることなく撥水化できる可能性が開けたと言える。現段階で計画に沿ってほぼすべて実施できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目的は、申請者らが独自に見出した「合成空気を用いた焼成」により、各種酸化物表面が撥水性を示すようになるメカニズムを明らかにするとともに、当該プロセスの適用範囲(温度および元素)を明確にし、その特徴付けを行うとともに、これまで報告されていなかった酸化物固体表面の化学結合に関する新規概念を構築し、この技術をセラミックスのバルク材だけでなく、コーティング薄膜や粉にも展開することで、酸化物セラミックスに対する、有機物を使わない環境に優しい撥水処理方法を確立し、これを用いた省エネルギー技術の開発に繋げていくことにある。 プロセスと撥水化の関係については本年までの検討でほぼ明らかになったと思われる。次年度の課題は 1.この方法で作製される撥水表面の特性をさらに広範囲で検討することで、従来のシラン等を用いた撥水表面との比較からさらに特徴づけを行うこと 2.計算科学的手法による有機物分子や水分子の酸化物固体表面での安定性の検討 である。前者に関しては焼結体から膜に試料を変更し、この処理で各種の撥水性酸化物薄膜を作製し、その上での水滴の転落挙動を粒子画像流速計測等により解析する。また原子間力顕微鏡の摩擦力顕微鏡モードやフォースカーブ測定から摩擦力の評価を行う。後者は既に本年から開始しており、Gd2O3やAl2O3に対するメタンなどの低分子の吸着挙動を広範囲で調査する。また粉末に対する処理の可能性についても検討を開始する。
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