研究実績の概要 |
研究計画に従って、太陽電池光吸収層材料に関わる基礎物性・格子欠陥特性の理論予測基盤の構築と新材料探索を行った。計算手法の開発に関しては、あらゆる結晶系のバンド構造計算の自動化をはじめ、様々な基礎物性や格子欠陥特性の第一原理計算に関する基盤技術を確立した。そして、その計算手法を用いて、多様な候補物質に対するスクリーニングを実行した。とくに電子とホールの輸送特性やドーピングの観点から有利と考えられる、亜鉛を含む3元系窒化物に着目してスクリーニングを行った。その結果、半導体として有望な物質として、合成の報告はあるが半導体物性が未開拓な4種類の物質と無機材料結晶構造データベース(ICSD)に掲載されていない11種類の新物質を見いだした。その中でも、新物質CaZn2N2は、地球上に豊富に存在する元素のみにより構成され、バンドギャップが1.8 eVの直接遷移型のバンド構造、小さな電子・ホールの有効質量、大きな吸収係数をもつことから、最も有望と判断された。そこで、この物質の合成を目的として高圧合成実験を行ったところ、合成に成功し、予測された結晶構造と光学物性が実証された。(Nature Communications 2016) そして、Sn(II)硫化物及び酸化物半導体に関しても、既知物質のバンド構造、基礎物性及び欠陥形成挙動の解明や計算スクリーニングによる新物質の探索と合成・物性評価、材料設計指針の構築に関する結果を得た。(Physical Review Applied 2016, The Journal of Physical Chemistry C 2016, Advanced Science 2016) 以上の成果は、窒化物やSn(II)化合物の半導体としての応用可能性の拡大の観点だけでなく、第一原理計算を活かした新物質探索の効率化手法を示した点からも学術的価値が高く、また波及効果が大きいと考えられる。
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