金属膜の水素透過能はこれまで、フィックの法則を出発点とする水素透過係数φに基づいて整理されてきた。しかし、この解析法は水素濃度が非常に希薄な領域でしか理論的には成立せず、水素透過能を正しく解析できない事例が多く指摘されている。 本研究では、金属膜の水素透過能を『水素の化学ポテンシャルに基づく水素透過能の新しい表現』に基づいて解析し、水素溶解特性と水素拡散の易動度の各パラメータに及ぼす諸因子の影響を定量的に整理する。これにより、従来の理解とは異なる切り口から、水素透過金属膜の新しい学術体系を構築するとともに、これらの知見を低温作動型合金膜の設計へ展開する。パラジウム系合金膜で見いだされた低温域での水素透過能の特異な温度依存性を新しい視点から理解するとともに、低温で高い水素透過能と優れた耐水素脆性を発揮する低温作動型新規バナジウム系合金膜の最適設計を行うことを目的とする。 本年度の研究実績の概要は以下の通りである。1.種々の合金元素Xを含むV-Fe-X3元系合金につい300~500℃でのPCT測定を系統的に行い、水素溶解エンタルピー変化およびエントロピー変化に及ぼす第3添加元素の影響を明らかにした。2.上記の合金について、300~400℃での水素透過試験を系統的に行い、水素拡散の易動度を求めた。易動度のアレニウスプロットより、振動数項と活性化エネルギーに及ぼす合金効果を明らかにした。3.低温作動型のV-Fe合金を設計した。300℃での水素透過試験の結果、設計合金は水素脆化することなく、PdあるいはPd系合金膜の5~10倍の水素透過流束を1000時間以上にわたって安定して維持した。
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