研究実績の概要 |
本研究の理論的背景は,1980年台に登場した破壊の物理にある(R. Thomson, Solid State Physics, Vol.39 (1986)). これにより,それまで現象論の範疇にとどまっていたマクロな破壊現象が,「転位と亀裂の相互作用力」という,ミクロな物性値によって定量的に表現できるようになった.そのような中で,研究代表者は材料の靭性向上メカニズムの解明には転位の直接観察が不可欠であると言う観点から”超高圧電子顕微鏡法を用いた亀裂先端転位の3次元構造解析”を行ってきた.更に,マクロな破壊挙動とミクロな転位運動を結びつけるために,”力学試験による靭性向上配因子の決定”を行い,異なるスケールから得られる結果を整理し,破壊抑制メカニズムの解明に努めてきた.本課題では,マイクロ破壊力学試験法と「超高圧電子顕微鏡(HVEM)トモグラフィ」による厚膜試料観察技術とを連携させ,マイクロ片持ちはり中の全転位構造を明らかにした.対象として材料は高窒素オーステナイト鋼を用いた.十分焼鈍して粒径を大きくした結晶粒から長方形マイクロカンチレバーにおける各面が<001>方位になる様切り出しを行った.その後FIBを用いてノッチの根本近傍に微小なスリットを導入した後ナノインデンターを用いて曲げ荷重を付与した.この際の力学状況は有限要素解析により求めた.試験後ノッチ先端近傍を超高圧電子顕微鏡で観察し,発生した転位の観察を行ったところ,分解剪断応力が最も高くなるすべり面上に配列する転位列が観察された. また,bcc金属への応用へも取り組み,極低炭素鋼における臨界分解剪断応力の方位依存性が明らかとなった.
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