本研究では、平成28年度に量産試作した1.8 GPa級超々高強度フェールセーフ(FS)ボルトについて、まずボルトの金属組織と力学基本性能との関係を確認した。また、実験に必要なナットおよび座金も試作した。さらにFSボルトの実用化では耐遅れ破壊特性が問題となることから、FSボルト素材からボルトネジ部を模擬した切欠き試験片および腐食試験片を採取し、日本鋼構造協会で提案された遅れ破壊評価のガイドラインに準じて遅れ破壊性能を評価した。その結果、FSボルト素材は既存の超高強度鋼と比較しても耐水素脆化特性に優れ、大気腐食環境下でも遅れ破壊しにくいことがラボ実験により確認された。 構造物の部材と部材を結合するボルト接合部には軸方向力・せん断力・曲げモーメントの応力が作用する。接合部設計ではボルトに作用する応力の合成ベクトルが用いられるが、ボルト群としての設計にはいくつかの仮定が含まれており、実際の応力伝達機構を反映しているかは不明である。特に、超々高力ボルトの利用は接合部のボルト本数低減につながるため、現行の設計法に基づいた接合部が適当であるかを実験により検証する必要がある。そこで平成29年度は、超々高強度FSボルトを合理的に活用するために提案した接合方法が実構造物の接合部性能に十分に反映できるかを確認することを目的として、1.8 GPa級FSボルトを用いた摩擦接合部の曲げ実験を実施した。その結果、FS ボルトを用いた摩擦接合部は接合部指針によって算出される降伏耐力および最大曲げ耐力を上回ることが実験により確認できた。
|