革新的な強度・延性バランスを有する新規構造用鋼の開発には,鋼中最高強度相であるマルテンサイト相の利用が不可欠となっている 。しかし従来の高強度鋼で は,マルテンサイト相自体の塑性変形能を利用するという発想はなく,材料本来の力学特性を十分に活用し ているとは言い難い。次世代の構造用鋼の力学特性の 飛躍的な向上には,マルテンサイト相の塑性変形能を最大限に活用した組織の創 成が望まれ,そのためには,マルテンサイト相の塑性異方性という弱点を克服す る高配向性マルテンサイトという新たな集合組織の実 現が不可欠となる。 その様な背景のもと本研究では,マルテンサイト相の集合組織制御に不可欠となる, マルテンサイト変態におけるバリアント選択則お よびその制御因子を明らかし,最終的にはマルテンサイト相を活用する材料制御の新たな指導原理の構築を目指 している。 平成28年度は新たに設計したデジタルホログラフィック顕微鏡がAFMと同等の精度でリアルタイムに表面起伏の計測が可能であることを明らかにし た。また,開発したデジタルホログラフィック顕微鏡を用いた観察により,従来せん断型と拡散型の2つの説が存在するフェライトサイドプレートの直接観察を 行い,変態に伴い生じる表面起伏の形成を詳細に解析した結果,個々のプレート形成時に生じる表面起伏はせん断型で想定される外形変形より実際には小さく, またフェライト形成後に徐々に時間をかけて生じることが明らかとなった。このことは,フェライトサイドプレートの形成はむしろ拡散型である証拠と考えらた。平成29年度はデジタルホログラフィック顕微鏡に夜ベイナイト変態とマルテンサイト変態の直接観察を行い,ラス形成時に生じるオーステナイト中の塑性緩和の定量評価と,その後に形成されるバリアントの選択則を明らかにした。
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