研究課題/領域番号 |
15H04152
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神原 淳 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (80359661)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / シリコンナノ粒子 / プラズマスプレー |
研究実績の概要 |
(1)PS-PVDによるSiナノ複合粒子は担持Niとの界面状態がポスト熱処理での構造化に大きく影響を与えることが前年度までに判明した.本手法は高スループット製造が特徴であることから,パイロット化の目安とされる1kg/minでの構造化の特徴を明らかにした.Si原料のみの場合,一次粒子は50nm程度に大きくなるが数100nm以上の高次凝集体が抑制されることで1g/min時よりも高いサイクル容量が達成された.一方,Ni添加原料ではNi不均質核生成温度が上昇してシリサイド化が促進されるため電池容量が著しく低下した.共凝縮モデルを踏まえて,高処理条件では一層の高速冷却の導入が高容量の長期サイクル維持に重要であることが明らかとなった. (2)プラズマ入力を供給粉末の蒸発と凝縮に同期させる変調プラズマスプレーによりSiOナノ粒子の形成を行った.変調の無い場合,SiO平均粒径は22nm,結晶Si分率は40mol%程度であったが,変調によって粒径は15nm,結晶分率は34%に低下すると共に粒子中の酸素量も低減する傾向が観察されて,高い電池容量とサイクル安定性の維持が確認された.変調による高温度化が原料蒸発時の還元を促進し,凝縮時の急冷化が成長を抑制し且つアモルファス不均化反応が進行した複合的な効果が寄与したものと判明した. (3)Cu集電体へのAr照射により濡れ性向上は確認されたが負極が集電体から剥離しやすい様子が観察された.そこでSiと合金を形成しないSn添加を検討し,CuSn合金による密着性向上と塗布後の低温熱処理時のSn溶融をSi粒子を繋ぐリガメントとして利用した活物質ネットワーク形成可能性を検討した.その結果,塗布型で100サイクルでも2200mAh/gを越える著しい容量維持性の向上を確認し,Siナノ粒子上でのSnOx形成が本特性に重要な役割を果たしている可能性を見出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Siナノ粒子に直接担持するNiをCNT成長の触媒に利用した熱処理による複合化を検討したが,従来のCNT成長条件では想定以上にシリサイド化が進行して電池容量を大幅に低下させてしまうことが明らかになった.そこで改めてNiを触媒として利用するための前提としてPS-PVDのSiナノ粒子の構造的な要件を洗い出し,ポストアニールを進める準備を進めた.また代替複合化アニール条件としてシリサイド化を抑制させながらカーボンの成長を進められる可能性のある,低温高圧プラズマを反応環境としての利用を検討して簡易装置の導入を進めた. (2)変調プラズマスプレーの期待するSiOの低サイズ化と還元促進の効果を実験的に確認できており,当初の予定通り進捗している.変調プラズマスプレー装置が高真空装置ではないため粉末回収時の酸化に起因して期待する程度の高容量には達していないが,本技術的課題も明らかになったことから,反応器の改善策の検討と共に,ポスト処理による還元処理の導入を検討しており更なる特性向上に繋がる可能性があり予定以上の進展も期待できると考える. (3)集電体との密着性向上を意図した集電体の単純な親水化によるプラズマ前処理だけでは長期サイクルには課題あることが確認された.そこで密着性向上の別のアプローチとして,Sn-Cu相形成の点在による密着性向上を意図して検討した結果,予想以上の著しい特性向上を示し,新たなSi-SnOx系材料の発見に至った. 以上を総合して,おおむね順調に進展,或いは想定以上の進展が見られていると考える.
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今後の研究の推進方策 |
(1)PS-PVD処理条件として,Siナノ粒子にNiが直接担持するもののシリサイド化が抑制された構造に制御しうる条件を選定する,本条件として,半球式水冷捕集器の導入による急冷条件に加えて,プラズマ流のフレーム端部での温度勾配を大きくしうるプロセス圧力の増加条件を検討し,更なるナノサイズ化とNiのシリサイド化抑制を狙う.これら複合ナノ粒子に対して低温度でのCH4等の原料ガスによるポストアニールを施し,NiSi2相形成を抑制しながらNiからのCNT成長或いはCコーティングの同時進行を検討する.平行して,大気圧プラズマを利用して,低温度でのCコート化/CNT成長を試みる. (2)装置の気密程度を上げる必要があるが,ポストアニールによる低温還元を検討する.特に,SiO原料粒子そのままでは表面からの還元ではSiO/Siのコアシェル構造化になり電池には不適な構造となってしまうが,不均化反応を単一ナノ粒子で実現する本手法の場合には,表面から効果的に酸素を除去することが可能となり含有酸素量を更に低減させたSi/SiOxコアシェル構造化が期待される.低温でのSiOxの還元を進めるためCOガスによる低温大気圧プラズマ環境での還元処理を検討する. (3)負極の真空乾燥だけでは特性の顕著な向上が確認できないこと,全てのSnがSnO2相まで酸化が進行した場合にも容量増加は限定的であった結果から,含有酸素量の異なるSnで構成される構造が重要な役割を果たしているものと推察される.そこで高容量化とサイクル安定性向上を両立する最適酸素量及びSi-SnOx構造の解明を進める.Si+SnO2を原料としたPS-PVDを検討すると共に,特に負極剤への酸素の拡散反応のバランスに注目することで最適熱処理プロセスの提案まで試みる.
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