研究実績の概要 |
ナノ組織化による摩擦係数μ制御(低μ化, 高μ化)は、高密度に格子欠陥(結晶粒界, 転位 等)を導入することにより、結合フリーな原子(電子の偏り)が試料表面で増加することに起因して可能となると考えられる。この点に着目して、格子欠陥種・密度の異なる鉄鋼材料について調査し、μ制御のための組織因子を明らかにすることで、金属の組織制御に基づいた新たなμ制御の指導原理を提案することを目的とする。 【a】 原子-分子間相互作用(物理吸着, 化学吸着)の活用による低μ化 構成分子が極性をもつエステル系潤滑油中のボールオンディスク(BonD)試験において、巨大ひずみ加工にてナノ組織化することにより低μ化が生じる。これは、FM-AFM, FT-IR 等の調査から、ナノ組織化により物理吸着膜の厚さや表面原子と潤滑油分子との結合の程度が増加することに起因することが分かった。その起源は、XPSの結果から、ナノ組織化による電子的な構造変化であると考えられる。また、巨大ひずみ加工と異なる手法である物理的気相成長法(PVD)により作製したナノ組織化膜においても、ナノ組織化により低μ化することが明らかとなった。PVD法は既に工業的に広く用いられているプロセスであり、成膜条件を最適化して組織制御することで、低μ化できることは意義深い。これらのことから、原子-分子間相互作用の活用による低μ化は、組織微細化に伴う普遍的な現象であることが分かった。 【b】 反応性(化学反応)の活用による高μ化 極圧添加剤(リン酸トリクレジル, TCP)を配合したポリ‐α‐オレフィン(PAO)系潤滑油中のBonD試験において、リン酸Fe膜(化学反応膜)が形成する。ナノ組織化により、その形成形態および摩擦・摩耗挙動が変化することで高μ化が顕在化することが分かった。
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