研究課題/領域番号 |
15H04158
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柴田 曉伸 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60451994)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水素脆性 / マルテンサイト鋼 / 構造材料 / 材料組織 |
研究実績の概要 |
水素脆性は材料中に水素が進入することによって,材料が著しく脆化してしまう現象である.水素脆性に関してこれまで種々の破壊モデルが提唱されてきているが,微視組織や力学特性の異なる材料,異なる変形条件で行われた実験結果に基づいたものであり,水素脆性破壊の機構に関しては,統一的な見解が得られていないのが現状である. 本研究では,マルテンサイト鋼の水素脆性における,「破壊起点」,「破壊伝播経路」,「破壊過程における水素集積挙動」と材料中の微視組織の関係を明らかにし,水素脆性を統一的に説明できるメカニズムの解明を目指すものである. 本年度は,水素量を変化させたマルテンサイト鋼に対して,種々の負荷応力で定荷重引張試験を行い,水素脆性における破壊様式と負荷応力および水素量の関係を調べた.その結果,定荷重試験における負荷応力を増加させると,破面における水素脆性破面の割合が減少し,水素脆性破面における{011}面に沿った擬へき開破面の割合が増加することがわかった.この傾向は異なる水素量の試験片でも確認されたことから,水素脆性破壊における破壊様式は,水素量にほとんど影響を受けず,主に負荷応力によって支配されていることが明らかとなった.さらに,破面トポグラフィ解析によって定荷重引張試験中の水素脆性破壊挙動を再現したところ,弾性域以下の低負荷応力では主に旧オーステナイト粒界での粒界破壊によってき裂が伝播していたのに対し,0.2% 耐力以上の高負荷応力では,き裂が伝播する過程で擬へき開破壊の割合が増加する傾向が確認された.そのため,負荷応力の増加に伴って,き裂の伝播過程において破壊様式が粒界破壊から擬へき開破壊へ遷移することが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定荷重引張試験を行うことによって,負荷応力が水素脆性破壊挙動におよぼす影響の詳細を明らかにすることができた.特に,破壊様式が,水素量にほとんど影響を受けず,主に負荷応力によって支配されていることを明らかにしたことは,水素脆性破壊メカニズムの解明に繋がる非常に重要な結果である.
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今後の研究の推進方策 |
これまで,マルテンサイト鋼の水素脆性破壊過程における「破壊起点」,「破壊伝播経路」,「破壊過程における水素集積挙動」と微視組織の関連を明らかにしてきた.今後は,予変形の影響に注目して,これまで得られてきている知見と比較することによって,予変形が水素脆性破壊過程にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする.また,研究の統括を行い,マルテンサイト鋼における水素脆性破壊を統一的に説明できるモデルの構築を目指していく.
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