研究課題/領域番号 |
15H04162
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
井上 博史 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00213174)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 燃料電池 / グリセリン酸化反応 / アルカリ水溶液 / 反応機構 / アンダーポテンシャル析出 / 直接型アルコール燃料電池 / アノード触媒 |
研究実績の概要 |
今年度得られた成果は以下のとおりである。 1.Pt電極上にAg原子層を修飾することにより酸化電流の立ち上がり電位は負電位側にシフトし、酸化電流密度も増大した。このことからAg原子層修飾によってグリセリン酸化反応(GOR)に対する触媒活性の向上することが分かった。また、炭素数3のGOR中間酸化生成物の酸化活性もAg原子層の修飾により向上した。 2.PtとAg修飾Pt(Ag/Pt)電極を用いるグリセリンを含むアルカリ水溶液の定電位電解酸化の結果、Ag/Pt電極の方がGOR電流の時間による低下が抑えられ、優れた耐被毒性を有することが分かった。また、液体クロマトグラフィーによるGOR生成物の定性・定量の結果、PtおよびAg/Pt電極とも、主生成物としてGlycerate、Lactateが検出され、Ag修飾によりLactateの選択率が増大した。GlycerateはGlyceraldehyde(GA)の酸化生成物であることから、グリセリンの末端の水酸基がまず酸化されることが分かった。また、LactateはGAやDihydroxyacetone(DHA)の加水分解生成物であり、グリセリンの中間酸化生成物ではない。赤外反射吸収分光法(IRAS)による解析では、印加電位によらずLactateの生成は認められなかったので、これは予期せぬ結果であった。 3.アルカリ水溶液中にGAならびにDHAを溶かすと、すぐに加水分解反応が開始し、Lactateが生成した。この結果とIRASの結果から、グリセリンの電解酸化で生成したGAが撹拌により電極からすばやく離れることによって、Glycerateの生成が起こり難くなり、代わりにLactateへの反応が進行したのではないかと考え、電解時に溶液を撹拌するのを止めたところ、Glycerteの選択率が増大し、Lactateの選択性が低下することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
グリセリンの定電位電解酸化の結果、IRASから予想されるGOR中間生成物以外にLactateが主生成物として得られた。これは、当初予期したものではなかったため、この原因を明らかにするための実験を追加した。このため、当初の予定よりやや遅れる結果となった。しかしながら、追加実験より、(1)グリセリンの2電子酸化生成物であるGAはアルカリ水溶液中ですばやく加水分解してLactateを生成した、(2)薄い電解液相でのGOR挙動を調べるIRASでは、Lactateの生成が認められなかった、という結果が得られた。以上の結果から、電極上でGAのGlycerateへのさらなる酸化反応が起こる前に、GAが溶液沖合へ拡散した場合には、加水分解によってLactateが生成するという仮説を立てた。この仮説に基づき、電解液の撹拌を止めて定電位電解酸化を行ったところ、Lactateの生成は抑えられ、Glycerateの生成量が増えるという結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、Lactateの選択率をさらに減少させ、GORが主に進行する条件を明らかにする。 その後、Carbonateまでのグリセリンの酸化反応機構を明らかにするために、Ag/Pt、Ag/Pd、Pt、Pd、Rh電極について以下の点を明らかにする。 1.C-C結合の開裂が起こるといわれているGlycerateとMesoxalateの電解酸化反応を行い、液体クロマトグラフィーにより生成物を同定し、選択率や電流効率を評価する。 2.炭素数が1あるいは2のGOR中間体(Formate、Glycolate、Oxalate)の電解酸化反応を行い、液体クロマトグラフィーにより生成物を同定し、選択率や電流効率を評価する。特に、最終生成物であるCarbonateに注目する。 3.Rh上にAg原子層などの助触媒を修飾した電極(例えばAg/Rh)を用いたときのグリセリン酸化反応機構をIRASやHPLCを用いて調べ、Ag/PdやAg/Pt電極を用いた場合の反応機構と比較する。
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