研究課題/領域番号 |
15H04167
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
武部 博倫 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90236498)
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研究分担者 |
斎藤 全 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (80431328)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 製錬工学 / 銅乾式製錬 / 高温融体 / 相分離 / 状態図 / 微細構造 / 融体物性 |
研究実績の概要 |
Cu, Fe及びS品位の異なる銅精鉱を国内製錬所等から入手し、溶剤のSiO2をFe/SiO2(重量比)を考慮しながら銅精鉱に混合し、酸化反応並びにスラグ/マット融体形成・相分離プロセスへの影響を、ホットサーモカップル (HTC)法を用いて調査した。 Ar中で短時間(~2秒)酸素ガス吹き付けでの急速加熱(~3秒後に約1250℃)を行い、銅精鉱の酸化、FeO-SiO2系スラグ融体の生成とCu-Fe-S系マット融体の形成及びマット/スラグの相分離過程を実体顕微鏡にて観察し、急冷後試料をSEM-EDSで評価した。銅精鉱中のFe-S成分の酸化反応でFe3O4マグネタイト相とFeO-SiO2系スラグ融体の形成が認められた。SiO2無添加での銅精鉱の酸化反応と比較して、溶剤SiO2の添加により、スラグ中のFe品位の低下、マグネタイト相生成の抑制及びFeO-SiO2系スラグ中のFe/SiO2比の増大が認められた。また低品位銅精鉱を模倣するためにCuFeS2(カルコパイライト)相を主相とする銅精鉱にFeS2を添加しその酸化反応過程を調べた。FeS2の添加によりCu-Fe-S系マット中のCu品位の低下、FeO-SiO2系スラグ融体中のFe/SiO2比の増加が認められた。これらの実験結果を基に銅精鉱酸化反応過程に及ぼす決定因子の検討を次年度実施する計画に至った。 銅乾式製錬の生成物として、製錬所等から銅スラグを入手し銅スラグの相と微細構造に及ぼす冷却条件の影響を検討した。冷却速度の低下でファイヤライトやマグネタイト相が形成され、結果として残存非晶質相中のSiO2とAl2O3の含有量が増大しその非晶質相にAs, Pbが濃縮されることで、1 mol/Lの塩酸水溶液に対する結晶化銅スラグのAs, Pbの溶出特性が桁違いに低下し、環境省告知第46号試験(重金属の溶出濃度)を満足することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HTC法を用いて酸素ガス吹き付けAr中で銅精鉱の酸化反応過程と硫化物マット融体と酸化物スラグ融体の相分離条件を検討し、高温での保持条件および急冷試料に対するSEM-EDSによる評価解析によりこれらの過程に及ぼす決定因子に関する理解が深まった 平成28年度は融体物性(特に粘度)を雰囲気中で測定する装置の立ち上げを行った。固体電解質を用いた自作酸素センサーによる酸素分圧の評価方法と、雰囲気中の酸素分圧を10の-6乗 atm未満に制御する方法を確立するとともに、特注のスピンドルを用いることでの< 1Pa.sの低粘性性液体の粘度を測定する方法と雰囲気制御下での銅スラグ並びに合成スラグの溶融条件を確立した。 銅スラグの冷却条件を検討することで相と微細構造の変化と重金属As, Pbの酸性溶液への溶出性の関係を明らかにした。 さらに予定以上の成果として、銅スラグ融体とマグネシウム-クロム質耐火物との界面反応を、FactSageデータベースによる熱力学的安定相の予測と、酸素分圧下での高温実験により調査・比較検討することで、熱力学的安定相の形成過程、融体物性(特に粘度と表面張力)並びに耐火物の微細構造の影響を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
HTC法による銅精鉱の酸化反応と硫化物マット融体/酸化物スラグ融体の相分離過程の実験を引き続き行い、再現性の評価と決定因子の理解を行う。またHTC法での雰囲気の酸素分圧の制御を行い、FeO-SiO2-Al2O3系合成スラグの液相線温度に関する状態図の作成を検討する。 確立した粘度測定方法を用い、銅スラグ並びに合成スラグ融体の粘度の温度及び組成依存性を評価するとともに、Al2O3等不純物脈石の影響について検討する。 確立した銅スラグ並びに鉄酸化物を含む合成スラグの溶融条件を利用して、系統的に組成を変化させた合成スラグ並びに銅スラグについて、相及び微細構造と冷却条件の関係を検討するとともに、As, Pbの塩酸水溶液における溶出性を評価する。 以上の3つの項目について評価検討を実施することで、銅精鉱の酸化反応と硫化物マット融体/酸化物スラグ融体の相分離過程、関連する基礎状態図の作成、融体物性の実験データの蓄積を行い本研究の総括及びまとめとする。
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備考 |
日刊工業新聞 電子版 科学技術ニュース(2016/6/16)で我々の研究成果が紹介された。
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