これまで多分に熟練者の経験に基づいてきたヒトiPS細胞培養技術をコンピューターシミュレーションに基づく移動現象の観点から取り組み、細胞あるいは細胞集団単位での機能発現、分化を時空間的に予想、制御しうる技術を構築し、標準細胞の最適かつ高速、大量培養法の実現に寄与することを目的に研究を行ってきた。 当該年度はiPS細胞懸濁培養の実用化へ向けて、撹拌槽内の粒子挙動を解析する手法を開発し、粒子にかかるせん断応力や底面接地粒子数を求めた。流動の支配方程式は連続式とNavier-Stokes式であり、気液界面形状の解析にはVOF法を用いた。またiPS細胞塊を粒子とみなし、その挙動解析にはNewtonの運動方程式を用いた。 数値解析により、60 rpmの一方向撹拌では底面中央部に粒子が溜まっていることが分かり、実験で観察されている現象が数値解析でも再現できた。一方、正逆交互撹拌は底面中央部の鉛直方向速度が大きいため、iPS細胞懸濁培養に適した特徴を持つことが分かった。。速度がsin 関数的に変化する正逆交互回転では、平均のせん断応力一定の条件下で槽直径と回転半径に最適な組み合わせがあることが確認できた。また、一方向回転よりも大きな槽内中心部の上向き流れが粒子の底面接地率の減少に寄与していることが分かった。底面接地粒子数比と、限界せん断応力値を超す粒子数比を攪拌速度毎にプロットすることで、各粒子径における最適な攪拌速度を算出した。また、算出した攪拌速度を用いることで、せん断応力、RBともに最適な状態を維持できることを見出した。
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