平成29年度は、海底に貯蔵されている石油や天然ガスを洋上にまで輸送するために用いられる長大な管状構造物の振動に関する研究プロジェクトの最終年度であった。この振動現象が長期間にわたって継続することで構造物の材料に疲労が蓄積し、程度によっては菅が破損することがあると指摘されている。この破損は構造物周辺の海洋環境へ与える影響は甚大であると予想される。それを未然に防ぐためのひとつの手段として振動予測シミュレーションがある。このシミュレーションを精確に行うために、深層から表層までの菅回りの海水の流れ場の様子を把握し、それを計算モデルへ入力することが望ましい。しかし、海水流れ場の鉛直プロファイリングは現時点では極めて困難な技術である。本プロジェクトは流れ場情報を、それ以外の情報を基に推定するという着想から始め、それを可能とする手法の確立を目指してきた。平成29年度においては、この問題に適用可能なデータ同化手法プログラムを実装することに注力した。振動する長大管と周囲流れ場との連成を記述する理論は前年度までにつくることができたので、その理論の解を数値的に求めるプログラムを実装した。本研究で想定しているデータ同化手法では、構造物の動的挙動の何らかの情報を計測によって取得する必要がある。管の運動変位、管の運動加速度、管に作用する流体力の3つを計測項目として挙げ、この3つのうちどれを計測すればデータ同化が良好に進むかを詳細に調べた。その結果、変位のみを計測する場合、同化の挙動が不安定で実用性に乏しいことが判明した。一方で、加速度、流体力を計測する場合は同化性能は向上した。また、これら3項目を2つ以上組み合わせることにより、同化性能がより向上することが分かった。
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