研究課題/領域番号 |
15H04219
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
上野 道雄 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (60358405)
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研究分担者 |
鈴木 良介 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (20711328)
塚田 吉昭 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (90425752)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 実海域性能 / 波浪中変動プロペラトルク / 自由航走模型実験 / 主機作動制限 / 補助推力装置 / 舵効き船速修正 / 風荷重模擬装置 |
研究実績の概要 |
本研究で構築した実船の変動プロペラトルク推定手法が想定どおりに機能するかどうかを検証するための補助推力装置を使った模型実験を実施しました。補助推力と模型プロペラ回転数を船速に応じて制御することにより、模型船の応答が変化することを実験的に確認し、本推定手法が基本的に自由航走模型実験で機能することを確認しました。 前年度の文献調査に基づき、様々な馬力制限の中から実用性を考慮して連続運転におけるトルク限界とプロペラ露出を選定し、これらの影響取り入れた主機モデルの構築をおこないました。そのうえで、これらを水槽実験に適用可能なアルゴリズムを検討しました。 全周造波機を備えた実海域再現水槽で荒天下の自由航走模型実験を実施しました。模型船には研究担当者らの開発・提案した補助推力装置と補助推力装置の機構を応用して新たに開発した風荷重模擬装置を搭載し、同じく研究担当者らが開発した舵効き船速修正の手法と風圧力推定法に従ってこれらを時々刻々制御することで、風と波が併存する荒天状態での実船の性能を直接評価するための実験をおこないました。波は理論計算との比較検討を考慮して基本的な規則波と一方向不規則波とする一方、風は一様風を想定しました。風荷重模擬装置は実際に船の周りに一様風を吹かせるのではなく、一様風を想定して模型船の速度と船首方位等の運動を時々刻々フィードバックすることで想定した風荷重を模型船に与える装置です。また、この実験では本研究で製作した小型模型船用の自航動力計によってプロペラトルクと推力の計測をおこないました。実験データは機関出力の制限を考慮することで荒天下の船の応答が変化することを示すものでした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で構築した実船の変動プロペラトルク推定手法が基本的に自由航走模型実験で機能することは、主機作動制限の有無の違いに基づく補助推力とプロペラ回転数の制御の違いが模型船の応答の違いになって現れることを確認したことによるものです。詳細な検討はより進んだデータ解析を必要としますが、基本的な原理が想定どおりに実験に反映されていることは理論計算との比較検討により確認しており、この点で進捗は順調と考えられます。 連続運転におけるトルク限界は通常はプロペラ回転数と馬力の関係として与えられますが、本推定法ではこの関係をプロペラ回転数と船速の関係として読み替えることで自由航走模型実験への適用を可能としました。これまでは理論計算上の検証でしたが、今回初めて自由航走模型実験に適用した結果、理論計算と同様の傾向が模型実験結果でも確認されたことから、本推定法の妥当性が検証されたと考えられます。一方、プロペラ露出のモデル化に関しては、低周波数成分のみを模型船の制御に反映させ、高周波数成分は実船尺度で計算上再現する手法としてモデルを構築しました。製作を予定していた船載型データ計測システムは自由航走模型制御用計算機内で実質的に実現するようにしました。 荒天下を想定した自由航走模型実験のために補助推力装置の機構を応用した風荷重模擬装置が開発できたことは波と風の両方の影響を同時に考慮することができる実験を実現する手法として重要です。その効果も理論計算との比較検討でおおむね妥当なものであることを確認しました。この実験手法は従来にない新しいもので、実船の実海域での性能を直接評価できるようにしようとするものです。前年度分を含めた研究成果は雑誌・学会等で発表を進めています。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに本研究で構築した波浪中変動プロペラトルク推定手法を適用した自由航走模型実験を実施しました。その評価は今のところ船体運動を中心とした応答の理論計算結果と比較検討に基づくものですが、今後はより詳細なトルクの非定常な変動を対象として検討を進めて推定法の妥当性を検証していきます。過去の実験データを用いた検討はもともと補助推力装置を使わない実験データを仮想的に向風中で補助推力装置を使ったと見なして解析したものでしたが、今回実施した実験は補助推力装置に加えて風荷重模擬装置も使用した波・風中での実験であるため、今後の解析結果はより有効な検証となると考えられます。 理論計算との比較検討で問題となると考えられるのは波漂流力の影響評価の精度です。波漂流力には前後・左右の力と回頭モーメント成分があり、理論計算手法は提案されているものの実験的な検証が十分とは言えません。さらに、荒天下で大きくなる斜航角やあるいは旋回運動の波漂流力への影響については理論的にも実験的にもまだ十分解明されていません。これらの問題を物理現象として解決するのが波浪中の模型実験ですが、対応する理論計算では上記の問題があることを注意して評価をおこなう必要があるため、本研究でもこの点に留意することとします。 今回、波と風の併存する荒天下を想定して模型実験をおこないました。今後は得られた実験データの詳細解析を進めるとともに、異なる荒天状況下における模型実験をおこないます。模型実験データを使った検証において、明確なプロペラ露出が再現できない場合に備えて、対応する理論計算上でプロペラ露出を仮定した場合を比較の対象とする可能性を検討します。
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